『続ける力、諦めない心』
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リアルタイムの説得力が高揚感に。中国流アパレル社長の手法とは?
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
「ライブコマースで日本を元気にする」。それが著者の目標だという。ライブコマースというのは、動画を生配信しながら商品を販売する手法。ネット版のテレビショッピングだと考えるとイメージしやすいかもしれない。
実際、商品の良さをアピールしつつ値引きでお得感を出す演出などは似ている。放送と配信との大きな違いは双方向性。本書を読んだ後、著者がSNSで毎日配信中の「燕チャンネル」を覗いてみて気づいたのは、リアルタイムのコミュニケーションが生み出す活気だ。
ライブ販売されているのは、著者が設立して社長を務めるアパレルブランド「ABITOKYO」の服。自らモデルとなり、商品を着用しながら説明する。画面には視聴者からのコメントが次々に表示される。素材についての質問があるとアップでみせたり、リクエストされた色を組み合わせたり、ユーザーとのやり取りを前提に番組は作られている。
試着ができない通販の不安を減らす効果もありそうだし、なにより視聴者が買い物を楽しんでいる雰囲気が印象的。実店舗で店員と対話するのに似ている。品物がどんどん売り切れていく様子は、バーゲンの高揚感も連想させる。画面でつながっているのが自分の好きなブランドの社長なのだから面白さは格別だろう。
いまや車さえネット通販でポチッてしまう時代。本書で紹介されるライブコマースの内幕は、販売戦略のヒントになるかもしれない。
来日時、節約のためにもやしを食べ続けたエピソードなど来歴も紹介されている。婦人服をOEM製造する会社を立ち上げたものの〈理想と現実の違いを思い知らされ、苦い思いをした〉と記す。そこから、年商50億円を超えるアパレルメーカーをどうやって生み出したか――。低価格で高品質、バリエーションに富んだ商品を作る戦略、中国での製造ノウハウなど、読みどころたっぷり。