『日本語教師、外国人に日本語を学ぶ』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
同じ目線で、改めて日本語に分け入っていく臨場感
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
例えば、「山々」はあるのに「川々」はない不思議。汚い言葉が少ない一方、断るときのバリエーションが豊富。そしてひらがなの「い」と「こ」は浮いている?!―読めば読むほど、思いがけない「日本語」の姿に驚きながら考えさせられる。そこから「言語を学ぶ」ということの本質が鮮やかにたちのぼってくる。
本書は、日本語教師として15年以上教鞭をとってきた北村浩子氏が、日本で日本語を駆使し活躍している9人の外国出身者にインタビューし、自らの見解を交えてまとめたものだ。韓国出身の歌手にはじまり、イタリア出身の翻訳者、ベナン出身の理系研究者、Xのつぶやきで有名なジョージア大使―さまざまな立場から照らし出される「日本語」の輪郭の豊かさに夢中になるファンが増え続け、今年二月の発売から三か月で重版が決定。空前の日本語学習ブームに後押しされ、日本語教員の資格に人気が集まるなか、「新書という形態が読者のニーズにうまくはまった面もあるのでは」と担当編集者は語る。
「インタビュー形式の読みやすさに加え、日本人が無意識で使い分けている表現をめぐるクイズや“かたこと日本語”の不自然さについて考えるコラムなど、日本語教師として指導してきた経験から得た文法知識が詰まっている点も特長です。なにより、聞き手の北村さんの姿勢が、本書の最大のエッセンスになっているんじゃないかと」(同)
日本人イコール日本語の専門家ではない。むしろゼロから日本語と向き合い、習得する過程を経てきた非母語話者にしか見えない部分が無数にある。だからこそ著者の北村氏は、彼らと彼らの獲得した日本語に心から敬意を込めながら対話を重ねていく。
「インタビューのなかで北村さんが驚いたり、何かに気づく瞬間がたくさん登場するのですが、日本語教師の成長譚としても読めるし、読者が日本語というものに改めて分け入っていく臨場感にもつながっている。教えてあげよう、ではなく、一緒に驚いて同じ目線で日本語を捉え直してくれるからこそ、多くの人の心に届いたのではないかと思います」(同)