『タイ外交史を読み直す』パッタジット・タンシンマンコン著

　人と同じく、国にも第一印象というものがある。あばたもえくぼ、もありがちな風景だ。

　「平和を愛する」「微笑（ほほえ）みの国」。「小国」タイの第一印象である。大国の強圧に対し「風にしなう竹」のように強靱（きょうじん）賢明な外交につとめ、平和と独立を保ってきた。しかし「微笑み」のえくぼは、本物なのか。

　「タイ人」の著者は、そんな第一印象を「問い直」すべく「自己探求の旅」に出る。旅路の果て、国際政治の実像を解明する第一級の学術書に結実した。

　そのまなざしは鋭い。「小国意識」に隠れた「大国」意識、「平和」的ではなかった「ジェノサイド」支持、「愛国」の意味と実践など、印象からかけ離れた実情を次々にあばきだした。

　従前あたりまえだった「竹の外交論」を解体し、一般にあたりまえな「外交史」を構築する。等身大の政治外交の「歴史」をあたりまえの命題とするには、学問的営為が欠かせない。

　美しい第一印象の向こうに、どんな実像があるのか。「タイ人」ならずとも、やはり自身に立ち帰らざるをえない。日本語で書かれたゆえんである。（東京大学出版会、８５８０円）

• 東京大学出版会
• 岡本隆司
• タイ外交史を読み直す: 「竹の外交論」からの脱却
• パッタジット・タンシンマンコン

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