『ポピュリズムの仕掛人』
- 著者
- ジュリアーノ・ダ・エンポリ [著]/林 昌宏 [訳]
- 出版社
- 白水社
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784560091586
- 発売日
- 2025/03/03
- 価格
- 2,420円(税込)
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『ポピュリズムの仕掛人 SNSで選挙はどのように操られているか』ジュリアーノ・ダ・エンポリ著
[レビュアー] 佐橋亮(国際政治学者・東京大教授)
データ駆使 世論操る
最近私たちは民主主義の恐ろしさを感じてはいないか。大衆の熱狂に支えられて選挙によって選ばれた新たなリーダーが、これまでの社会や経済のあり方の一切をいとも簡単に否定する。そうした政治が、多くの国で中央も地方も席巻しつつある。
フランスに生まれイタリアで政治を担った経験もある著者は、イタリアやハンガリー、イギリス、アメリカなどを例に取り、ポピュリズムがなぜ根を広げているのか、軽妙洒脱(しゃだつ)な表現と印象的な引用で示してくれる。
本書の醍醐(だいご)味は、技術とデータを駆使して政治をカーニバルに、または毎日新作が演じられる劇場のようにした「裏方」に焦点が当てられているところだ。そうしたポピュリズムの仕掛人たちが、政治的信念よりも世論を操ることを目的に、有権者の怒りや鬱屈(うっくつ)した感情を解放する。
既存政治は腐敗に満ちているとされる。「岩壁に張りつくムール貝のように特権にしがみつく奴(やつ)ら」から政治を取り戻せ。ポピュリストの約束が非現実的でも構わない。彼らには「権力者を懲らしめるという約束だけ」は守らせればよい。
なぜ、それほどまでに人々は苛立(いらだ)っているのか。それはネットを通じて垣間見る世界と自分の平凡に見える暮らしのギャップで欲求不満が高まるためだという。心のすき間に入り込むものが、陰謀論であり、ポピュリストからの誘いなのだ。
事実を簡単にねじ曲げるこうした裏方は、政治技術屋といってもよいほどだ。個人に働きかけられるデータという羅針盤を持った彼らを止めることは難しい。
ポピュリズムはナショナリズムとも合流している。本書は民主主義の未来に悲観的だが、ここから政治を立て直していくための次の読書に挑みたくなる本だ。林昌宏訳。(白水社、2420円)