『空から見た 世界の食料生産』写真・ジョージ・スタインメッツ/文・ジョエル・K・ボーン・ジュニア

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空から見た 世界の食料生産

『空から見た 世界の食料生産』

著者
ジョージ・スタインメッツ [写真]/ジョエル・K・ボーン・ジュニア [著]/マイケル・ポーラン [著]/樋口 健二郎 [訳]
出版社
原書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784562075355
発売日
2025/04/22
価格
6,380円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『空から見た 世界の食料生産』写真・ジョージ・スタインメッツ/文・ジョエル・K・ボーン・ジュニア

[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)

 多数の空撮写真を用いて、世界の食料生産の光景を切り取る写真集である。見渡す限りの広大な農耕地もあれば、猫の額ほどの地面を畑に利用する地域もある。様々な家畜が飼われる村や、海の漁場・養殖場も俯瞰(ふかん)される。

 ただの写真集ではないことに、読者はすぐ気づく。作者は写真家とジャーナリスト。食料生産に問題意識を抱く二人が、鋭い批判精神で逆説のメッセージを伝える。

 空から見下ろす耕作地や牧草地は、産業統計の数字のように整っていて美しい。だが写真からは、そこで働く人間や、産物を求める人々の姿は見えない。実は空撮写真は、写ることのない低賃金の労働者や食料を買えない弱者の苦難を暗示しているのだ。

 食料生産には、拡大する貧富の差、気候変動による生産の破綻、農村漁村の衰退、強者の論理による売買・貿易といった、社会の矛盾や失策が山積している。作者が問うのは、人類はこれから何をどう食べて幸せを求めるのかという、不透明で重い課題だ。樋口健二郎訳。(原書房、6380円)

読売新聞
2025年5月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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