『ビジネスにも日常にも役立つ 人を動かす経営学』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】部下が自ら動き出す!経営学に学ぶ「人を動かす」実践的ヒント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
人を動かしたいと思っていたとしても、必ずしもこちらが望むように動いてもらえるとは限りません。もちろん仕事に関しても同じで、報告を逐一するようにと伝えているにもかかわらず、部下からほとんどホウレンソウがないというようなケースも少なくないものです。
それは、「人を動かそうとする場面では、動かそうとするこちらの考えばかりが強調されている」からなのだと指摘するのは『ビジネスにも日常にも役立つ 人を動かす経営学』(佐藤大輔 著、ナツメ社)の著者。
ホウレンソウを徹底させるのはトラブルを事前に防ぐためでもありますが、問題はそこに「行為する人自身がどう考えるか」という発想がないこと。
動かす側の思いどおりに動かすことが目的になっているわけです。しかし本来であれば、「単に動かすのではなく、いわれた側が自ら動くように促す」ことが望ましいはず。
ちなみに人を動かすには、「こちらの事情で相手を思いどおりに動かそうとする手段」と、「人々が自ら動くようになることを促す手段」の2つがあるのだとか。
前者では、動かされる側の人間性はほとんど考慮されないため、いわれた側もなにも考えず、いわれたことをやるだけの受動的な動きをすることになるでしょう。
しかし後者では個人の主体性を重視しているため、「どうすれば自ら動くようになるのか」を考えることになります。
無理に動かすのではなく、どうして動かなければならないのかを自分でわかってもらえるよう導くわけです。このような扱い方によって人々は能動的に行為を生み出すようになります。(「はじめに」より)
ただし受動的な行為と能動的な行為は、どちらだけが重要だというものでもないそう。状況に応じて、両者を使い分けることも大切だというのです。
こうした考え方を念頭に置いたうえで、きょうは第1章「“人を動かす”経営学」内の「そもそも経営するってどういうこと?」に焦点を当て、基本的なことを確認してみたいと思います。
実際、経営者はなにを経営しているのか?
経営者はビジネスがうまくいくように、多岐にわたるものごとをやりくりする必要があります。
たとえば洋菓子店のビジネスでは、小麦粉やバターなどの材料を調達し、調理するためのパティシエを雇い、厨房機器を使って調理してもらい、できたお菓子をお客さんに提供することになります。
ですから、洋菓子店のビジネスを進める上では、働いてくれる従業員や来店してくれるお客さんのようなヒト、保管している原材料や厨房機器のようなモノ、支払いのために使う現金のようなカネをうまく動かしていかなければなりません。(19ページより)
規模の大きな企業になれば、そういった対象はもっと複雑になるでしょう。ヒトに関していえば、原材料を買ったり商品を売ったりする取引先とのつきあい方を考えなければなりませんし、従業員を束ねるために組織や制度のような仕組み(システム)もうまく運用していくべき。
モノとしては、つくられた製品のストックを管理し、オフィスで使われるデスクや椅子などの什器、ペンやパソコンなどの消耗品や備品、ビルや工場などの不動産もあります。しかもそれらは置いておくだけではなにも生み出さないので、うまく活用して儲けを生み出していくことが重要。
カネは基本的には金庫などに保管されている現金を指しますが、銀行に持っていけば預金になりますし、関連企業の株を買ったとすれば株券(有価証券)もカネということになります。
また、こうしたヒト・モノ・カネ以外にも、製造や販売に関するノウハウ、顧客や取引先のデータなどの情報、特許のような知的財産など、やりくりすべき重要な経営対象は他にも存在します。経営者はそれらをうまくやりくりしつつ、儲けを生み出していかなければならないのです。(19ページより)
経営学を使おう
仕事のクオリティを上げるために経営学を学ぼうとしても、非常に多くの理論があるため、自分に必要な知見を見つけ出すことはなかなか困難。なにしろ経営学には、経営管理やマーケティング、経営戦略、会計学、ファイナンスなどといった理論や分野が混在しているのですから。
しかしそんなとき、経営の仕事の分類が役に立つのだそうです。
店や企業の内側にある経営対象(ヒト・モノ・カネ)による「内向きの経営」か、店や企業の外にある資源(ヒト・モノ・カネ)をうまくやりくりする「外向きの経営」か、あるいはヒト・モノ・カネのどれを対象にするのかという基準で見ると、経営学のさまざまな理論や分野を整理することができるというのです。
たとえば管理の仕事をしていて、部下である従業員をどう動かすべきかを知りたいのであれば、内向きの経営としてヒトを扱う経営管理の分野の知見が役に立つはず。
同じヒトへのアプローチでも、販売担当者として顧客に商品を買ってもらう営業のような立場であったとしたら、外向きの経営としてマーケティングの知見が役立つでしょう。
工場のような生産現場で原材料の管理や効率的な生産方法を考える人には、生産管理などの理論が用意されています。
一方、企業の外にあるモノとして原材料や部品をどう調達するかというサプライチェーンマネジメントを考えるのは経営戦略の分野。
企業のなかにあるお金のやりくりに関する知見は財務諸表管理をはじめとする会計学分野に用意されていますし、企業の外にあるお金をいかに運用するかという企業金融はファイナンスの分野で議論されています。
このように、何を対象に経営するのかを基準にすることで経営学を俯瞰することができ、自分の知りたい経営学がどこにあるのかを知ることができるわけです。(25ページより)
もちろん一般的なビジネス書を参考にするという方法もあるでしょうが、役に立つかという観点では、学術的な経営学のほうに強みがあるそう。
経営学の理論は、学術的な方法論に基づいて作り出されているので、一般的な理屈に比べてさまざまなケースに当てはまる可能性(これを外的妥当性と言います)があります。
また、その理論どおりのことが起こる確からしさ(これを内的妥当性と言います)もある程度保証されています。(26ページより)
経営学の理論は抽象的に感じられる可能性もありますし、理論を自分の要件に当てはめて使わなければならないという面倒くささもあるでしょう。しかしそれでも、妥当性の高い理屈としてつくられている経営学は、じつはとても役に立つというのです。(23ページより)
「受動的な行為と能動的な行為の双方を促すためになにができるのか」を、経営学を参考にしながら考えている一冊。人を動かすことで悩んでいる方は、手にとってみるべきかもしれません。
Source: ナツメ社


























