同僚を自殺に追い込んだパワハラ交番警察官が死体で発見された…どこにでもいそうな「ベテラン交番相談員」が活躍する新・警察小説
レビュー
『交番相談員 百目鬼巴』
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名探偵は、定年退職した警察OG、異能のオバサン交番相談員、見参!
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
警察小説の普及とともにその組織や役職についてもだいぶ知られるようになったが、まだまだ知られていないことは多い。交番相談員はその好例ではないか。交番警察官の様々な補助をする役目を担う非常勤の職員で、ベテランの警察官OB、OGが勤める。
本書『交番相談員 百目鬼巴』の表題の百目鬼巴もそうした一人なわけだが、並みの交番相談員と異なるのは、「中肉中背のどこにでもいそうな普通のおばさん」という外見とは裏腹に、県警本部の各部署を渡り歩き、科学捜査の知識も豊富に有しており、現役時代は刑事部から「未解決事件の捜査にあたってほしい」と熱烈なお呼びがかかっていたというその能力と経歴。
本書は彼女が名探偵役を演じる六篇を収めた連作集である。
冒頭の「裏庭のある交番」はパワハラのシーンから始まる。南原交番の田窪主任は「ぼく」こと平本の同僚である安川を事あるごとにいじめていた。六月のある日には、自転車盗難の検挙数が少ないと小言を食らわし、その解決法を伝授するが、真に受け実行した安川は書類送検され、やがてそれを苦に自殺。田窪は気にも留めていないようだった。しかしその後、平本が地域課での仕事を終えて交番に戻り、裏庭から休憩室へ回ると、そこには田窪の死体が横たわっていた……。
パワハラ交番警官の死をめぐるストレートな謎解きものだが、続く「瞬刻の魔」では鉄道警察隊のグロテスクなたくらみに、「曲がった残効」ではパトカー警官の事故死の謎に、「冬の刻印」では老外科医師の奇抜なメッセージに、「噛みついた沼」では警官夫婦を振り回すカミツキガメの謎に、そして「土中の座標」では地滑りで生き埋めになった警官の策謀に、百目鬼が各交番の地で挑む。
百目鬼自身が事件に巻き込まれることはないが、それは今後に期待ということか。また一つ、楽しみな著者のシリーズが増えた。