『三國連太郎、彷徨う魂へ』
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赤裸々さと厄介さと可愛らしさが詰まって、面白すぎるぞ! 三國連太郎!!
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
2010年、つまり亡くなる3年前にボクは三國連太郎をインタビューしているんだが、笑顔でオープンに短小包茎のコンプレックスについて語っていたこと(赤裸々すぎて“短小包茎”が“性的コンプレックス”に修正された)と、痴呆が入り始めていたので会話がループしがちだったこと、そして「くれぐれも息子さん(佐藤浩市)のことだけは聞かないように」と事前にスタッフから念押しされたことをよく覚えている。
『三國連太郎、彷徨う魂へ』は、三國と30年ほど交流してきた書き手が、その最晩年までちゃんと描いた傑作ルポ。最近文庫化されたんだが、彼の赤裸々さと厄介さと可愛らしさがたっぷり詰まっていて、とにかく面白すぎるのだ。
聞けば大体のことは素直に答えてくれるし、その流れで「その頃、僕は浮浪者をしておりまして」と、唐突に余計な告白をしてくる三國。
「三國連太郎と太地喜和子のセックスについて、私は詳しい。三國が、教科書を朗読する教師のように、包み隠さず、教えてくれたからだ。そんな授業のあと、私はよく寝込んだ。七度台の熱が出て、頭がずきずき傷んだ。誰とも会いたくなくなって、ちょっと困った」
彼の話を正面から受け止めると相当なダメージも食らうようなのだ。
「彼は徹底した自由人である。切れない関係は、彼の中にない。その意味において、彼はおそろしく孤独だった。でも、それで何も困らない。寂しさを感じない。もちろん、映画界の秩序に収まりきれなかった」
生涯自由を愛して、だからこそ自由を奪う戦争が大嫌いな男が、俳優になっても五社協定なんて面倒くさいものに縛られるわけがなかった。
そして晩年は、他人の言葉を理解できない=もう俳優もできないと恐怖し、入院で自由がなくなることを嫌がった。それでも入院中、不仲だと思われていた佐藤浩市や孫と仲良く過ごしていた様子が知れただけでも良かったと思うのである。