『ゴースト・フォレスト』ピク・シュエン・フォン著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
『ゴースト・フォレスト』ピク・シュエン・フォン
一家が国をまたいでばらばらに暮らす家族形態を「宇宙飛行士の家族」と呼ぶようだ。主に香港や台湾などから移住した家族を指すもので、本書はそうした一家の、娘の視点から描かれる物語だ。移住のきっかけは、一九九七年のイギリスから中国への香港返還。父のみを香港に残し、三歳半の「私」は母や祖父母とともにカナダへ移り住む。
話は短い断章のつらなりによって構成される。各章は詩にも似たやわらかな淡い言葉でつづられ、そこに私やその母、祖母といった家族の声が折り重なる。
友達と麻(マー)雀(ジャン)が打てなくなると移住を嫌がる祖母も、母も私も、次第にカナダに慣れていき、一方で香港に残った父は、娘の価値観が中国の伝統から離れていくことを嘆く。私は私で、神経質な父に幾度も傷つけられ、なかなか心の通った交流ができない。そんな父も、六十一歳のときに死病にかかってしまう。
どのような家族形態であれ、人々は同じように泣いて笑い、死者を悼む。どこにでもあるだろう別離の悲しみは、しかしそうだからこそ、海を渡って心を震わせる。神崎朗子訳。(左右社、3080円)