『まさか私がクビですか? なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著

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まさか私がクビですか?

『まさか私がクビですか?』

著者
日本経済新聞「揺れた天秤」取材班 [著]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296207503
発売日
2025/03/14
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『まさか私がクビですか? なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

日常脅かす陥穽の数々

 各種媒体のニュースで、近隣トラブルや職場内トラブルが警察沙汰や訴訟にまで発展したケースの報道に触れると、足元に容赦なく出現するブラックホールを見るようで恐ろしくなる。本書が紹介しているのもそうした事例なので、体調や気分が落ち気味のときにはお勧めできない。それだけ注意していただければ、全9章、会社員たちの悲喜こもごもからお金のトラブル、有名企業のスキャンダル、男女のすれ違い恋愛トラブルにSNSの闇と、様々な「まさか」を安全に知ることができる。

 転職先の入社歓迎会で酔っ払い、会社や上司に対して侮蔑的な言葉をぶつけたことで内定を取り消された三十代の男性。「泥酔状態での発言は理由にならない」と処分の無効を求めたが、さてその結果は? 近年、アルハラの認識が広がって飲酒の強要は減ってきたものの、こんな意外な形のお酒のトラブルもあるのだ。

 ドラマ化されて大ヒット、あらためて話題になった積水ハウスの地面師事件。その背景には、大規模マンション事業で業界の後(こう)塵(じん)を拝していた積水ハウスの焦りと、「お宝物件」への期待があった。このとき、問題の土地の売買契約を決める稟(りん)議(ぎ)書は、たった二日間で社内を駆け巡り、次々と決裁印が押されたという。ちょっと待て、これでいいのか。そんな「立ち止まる勇気」の大切さを教えてくれる事例である。

 「太平洋戦争の戦勝国が管理している秘密資金の提供を受けられる」。大手外食チェーンの会長がこんな勧誘に乗ってしまい、三十六億円超を失った。二〇一七年の金融詐欺事件だというが、この手口、まるっきり「M資金」だ! 旧日本陸軍や進駐軍の隠し資金から融資を受けられるという触れ込みで、終戦直後から高度成長期にかけて、多くの事業家や企業が騙(だま)された詐欺話である。今も通用していたとは。

 時代が変わっても、日常を脅かす陥(かん)穽(せい)はなくならない。油断大敵、気をつけましょうね。(日経BP、1980円)

読売新聞
2025年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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