『仏教を「経営」する』
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『仏教を「経営」する 実験寺院のフィールドワーク』藏本龍介著
[レビュアー] 奥野克巳(人類学者・立教大教授)
一九八三年、私はバングラデシュで上座部仏教のもと出家した。第三次印パ戦争で生まれた多くの孤児たちを受け入れた寺での生活は、社会の痛みと宗教が交差する場そのものだった。
本書の著者は、二〇〇八年にミャンマーで出家し、戒律に厳しい「森の寺院」で修行と参与観察を行った。都市の瞑(めい)想(そう)センターにも滞在し、仏教実践の姿を丹念に見つめてきた。現在は日本で、仏教を支える新たな試みに取り組んでいる。
日本で仏教が衰退気味なのは、すべてが移ろいゆくという「空」の思想や、幸せでさえ心の投影にすぎないとする「唯識」のまなざしが、日常の感覚として根づいていないからである。
そうした見通しのもと、著者たちは、仏教こそが人生を導くと信じる設計主義を手放し、仏教がふとしたときに助けとなるかもしれないという仄(ほの)かな願いを胸に歩み始めた。そして仲間たちとともに、新たな仏教を紡ぎ直す実験寺院・寳(ほう)幢(どう)寺を「経営」している。
本書は、ブッダの教えから世界を想像/創造する実践と研究の記録だ。宗教と社会の交点から、仏教の力を問う気概に満ちる。(NHKブックス、1760円)