『PARK STUDIES 公園の可能性』
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『PARK STUDIES 公園の可能性』石川初著
[レビュアー] ドミニク・チェン(情報学研究者・早稲田大教授)
人びと媒する遊具、庭園
都市に住んでいるものとして、公園が日々の生活で果たしている役割はとても大きいと思う。特にコロナ禍で遠方に旅することができなくなった時期には、近隣の公園の存在に救われる思いをした人も少なくないだろう。
本書は、ランドスケープ設計を研究してきた著者が、日本国内外の公園を巡りながら考えたことを十八編のエッセイを通して書き連ねた本だ。著者が公園を歩きながら語るような、おだやかな筆致で書かれた本書を読み終えて、ランドスケープの研究とはすなわち、公園や庭園といった人工的に設計され、形づくられた景観が、住民や生き物たちとどのような関係を結ぶ環境となるのかを問うことだと思った。
本書には、子どもたちが遊ぶ遊具、買い物客が憩うベンチ、臨時的に開放される個人住宅の庭園、公共のトイレ、そして慰霊碑など、公園が媒(なかだち)する人びとの生き方がたくさん紹介されている。なかでも評者が興味を惹(ひ)かれたのは、「欲の細道」と著者が訳した「ディザイア・パス」という現象だ。表紙に使われている写真は、幕張海浜公園の広大な芝生の上を人びとが踏み均(なら)してできたディザイア・パスを映している=著者撮影=。誰が始めたのかもわからないし、事前の合意形成があったわけでもなく、そこを通りたいという欲を多くの人が抱いて歩いている内に細い道ができあがる。獣(けもの)道(みち)ならぬ人(ひと)道(みち)とも呼べるかもしれないが、動物と人が共に踏んで出来た道もあるかもしれない。管理者や行政の手から離れて、長い時間をかけてルールが生まれる様子を想像すると面白い。
著者は他にも様々な二項対立が融解する公園の風景を紐(ひも)解(と)いていく。本書を読むうちに、紹介されている公園に足を運びたくなるのと同時に、近所の慣れ親しんだ公園を再び見つめ直す視点が身に宿されるのも感じられるだろう。(鹿島出版会、1980円)