『日系アメリカ人 強制収容からの〈帰還〉』
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<書評>『日系アメリカ人 強制収容からの<帰還> 人種と世代を超えた戦後補償(リドレス)運動』油井大三郎 著
[レビュアー] 山岸敬和(南山大教授)
◆声上げるまでの葛藤と連帯
第2次世界大戦中、米政府は市民権を持たない移民1世だけでなく、米国市民である日系人も強制移住・収容の対象とした。戦場では愛国心を示すべく作られた日系人部隊が勇敢に戦い、戦後は勤勉で順応的な姿勢から「モデル・マイノリティ」と称された。そして1988年、レーガン大統領が市民自由法に署名し、政府は公式に謝罪し、賠償に踏み切った。
本書が明らかにするのは、その歴史が決して直線的でもなければ、必然的でもなかったという点である。多くの日系人が米国への忠誠を誓う一方で、それを拒否した人々もいたが、動機は一様ではなかった。収容所体験についての記憶は世代や性で異なっていた。戦後の公民権運動やベトナム反戦運動との接触を通じて意識の変化が生まれ、日系人コミュニティ内でも葛藤と模索が続いた。同時に白人社会も戦中から戦後にかけて、少しずつ日系人に対する態度を変容させていった。
著者は、こうした歴史の複層性を巧みにそして丁寧に描き出す。単なる被害の記録にとどまらず、人々がどう過去と向き合い、連帯し、やがて声を上げていったのかを、静かだが力強い筆致で伝えている。本書には、歴史を知るだけでなく、今を生きる私たちが何を問い直すべきかというメッセージが込められている。
私はかつて、本書にも登場するアリゾナ州のヒラリバー転住所跡を訪れたことがある。人里離れた乾いた大地に立ちすくんだとき、自由を奪われた人々の絶望が、今もなおその場に染みついているように感じられた。本書を読み進めるうちに、そうした場所がいま、身の回りにひそかに作り出されてはいないかという問いが頭を離れなかった。
人間の尊厳が軽んじられる事例が各地で起きている今だからこそ、本書は広く読まれるべきである。受けたトラウマによって世代を超えて人々は苦しめられ、それによって仲間・家族内に亀裂を生じさせ、心に深い傷を負ったまま多くの人が亡くなっていく──その現実に目を向けるきっかけとなるだろう。
(岩波書店・3190円)
1945年生まれ。一橋大・東京大名誉教授・アメリカ現代史。
◆もう1冊
『有刺鉄線内の市民的自由』水野剛也著(法政大学出版局)