『スティグリッツ 資本主義と自由』
- 著者
- ジョセフ・E・スティグリッツ [著]/山田 美明 [訳]
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784492315644
- 発売日
- 2025/05/21
- 価格
- 3,080円(税込)
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<書評>『スティグリッツ 資本主義と自由』ジョセフ・E・スティグリッツ 著
◆脱「市場原理」実践派の提言
著者のスティグリッツは今やアメリカで最もラディカルな経済学者である。私が経済学を学び始めた頃のスタンダードはサミュエルソンだった。ところが最近、マンキューという高名な経済学者がサミュエルソンを「中道左派」と呼んでいる文章にぶつかった。この数十年間の世の中の右傾化の反映でもあるが、サミュエルソンより急進的な現在の著者は「左翼」と呼ばれているのかもしれない。
さて、本書で著者が言いたかったことは、今こそ新自由主義の時代を終わらせねばならないという一言に尽きる。本書のまえがきには、政治哲学者バーリンの有名な言葉が引用されている。「オオカミにとっての自由は、往々にしてヒツジにとっての死を意味する」と。
フリードマンやハイエクの経済思想を「新自由主義」とだけ片づけるのは少し誇張を含んでいるが、そのエピゴーネン(追随者)たちが現在、新自由主義や市場原理主義と呼ばれている思想を広めたことは間違いない。著者は単なる象牙の塔の経済学者ではなく、米大統領経済諮問委員会(クリントン政権)の委員長を務めたほどの実践派である。ずっと金融の規制緩和には反対し続けたが、委員長を退いた後、連邦議会があっさりと銀行の規制緩和とデリバティブの規制撤廃を認める法律を可決したと本書で批判している。当時クリントン大統領は、英国のブレア首相とともに「第3の道」を進むとリベラル派に期待されていただけに、著者の落胆も大きかったのだろう。それがのちに金融危機の引き金になったことは今では周知の事実である。
新自由主義に代わる枠組みとして「進歩的資本主義」を論じている。大企業の権力をそぎ、労働者を保護し、機会の平等を確保する制度づくりを目指すものだが、株主資本主義に毒された既得権益との対決を彼自身も意識しているのだろう。必要以上に激しい表現も散見されるが、トランプ大統領の復権で不透明度を増した現代アメリカの政治状況に光を求める人たちには歓迎されるに違いない。
(山田美明訳、東洋経済新報社・3080円)
米国の経済学者。2001年にノーベル経済学賞受賞。
◆もう1冊
『新自由主義』D・ハーヴェイ著、渡辺治監訳、森田成也ほか訳(作品社)