『記念日』
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交わるはずのない三人の女性が「老化を疑似体験」すると……
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
四十代、二十代、七十代。まったく接点のない三人の女性が、偶然から知り合い、お互いの人生にかかわりを持ち始める。
住む場所を失い職も近々失う見通しの、四十代の図書館職員のソメヤは、ルームシェアメイトの募集を見つけて何とか住まいを確保するが、注文の多い若い家主のミナイとは気が合わず、家にいても全然心が休まらない。
息子に頼まれ、ソメヤのいる図書館に『ハリー・ポッター』を借りに来た乙部は、対応してくれたソメヤと息子をどうにかくっつけたいとたくらんでいる。
小説は、ソメヤ、ミナイ、乙部(サッちゃん)へと視点人物が移る三部構成になっている。ミナイと乙部は好奇心が強く、行動原理がかなり身勝手で、断れないソメヤはどんどん巻き込まれていく。ミナイやサッちゃんの視点で見ても、そういう印象はあまり変わらない。
ずかずかと他人の領域に踏み込むミナイと乙部のせいで、ソメヤは乙部の、現在は仕事もせず家に引きこもっている息子の正雄と、二度も食事するはめになる。
若い身体に居心地の悪さを感じて早く年を取りたいと願うミナイは、老化を疑似体験できるベルトを開発、ソメヤの膝に装着させて痛い思いをさせるが、現実の高齢者である乙部は乙部で、いまだに「ちゃんとした年寄り」ではない、と自認していたりする。若者が想像する典型的な「おばあさん」なんて存在しないのかもしれない。
ストレスを与えられる一方に見えるソメヤだが、二人からの干渉を受けいれているうちに、ミナイの友人のロミもまじえて食事をするような関係性が生まれていく。
小説の向かう先にわかりやすい成長や発見というものは用意されていないけれど、他者と生きる不自由さも面白さも、小説を通して存分に味わうことができる。