『東京新聞はなぜ、空気を読まないのか』
- 著者
- 菅沼堅吾 [著]
- 出版社
- 東京新聞出版(中日新聞東京本社)
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784808311117
- 発売日
- 2025/01/29
- 価格
- 1,540円(税込)
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芸能面に強く、原発事故の詳細も。この報道姿勢はなぜ生まれたのか?
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
私の前座時代に遡る。新宿末広亭の楽屋だった。古老が「これからは情報だよ。新聞を取ってるかい」と言った。「いえ、まだ」「取る時は東京新聞にしな。昔は都新聞と言って芸能に強いんだ」それが頭に残り、二ツ目から読者になった。なるほど芸能に強く、以来、落語家として扱ってもらい、作家として取材などをしてもらった。
本書の始まりは3・11だ。12日朝刊1面に写真と記事がドーンと載っている。『東北・関東大地震 仙台で10メートル津波 首都圏の機能マヒ原子炉停止で緊急事態宣言 避難指示 死者300人超 気仙沼で大火災M8・8国内最大』夕刊1面には『死者・不明千数百人 三陸沿岸は壊滅 福島第1原発 放射能漏れ』とあり、事態は刻一刻と変化して行く。
そう、我らも新聞社ももちろん被災者も、何が起きているか分からなかったのだ。そして13日、事態が大きく動いたと読者は知らされる。『福島原発で爆発 初の炉心溶融』。思い返すだけで鼓動が速まる。
しかし不思議だ。鮮明に覚えている1面もあれば、初めて接する1面もあるのだ。当時、私は何をしていたのか。そう、怖いもの見たさに、襲う津波の動画に見入っていたのだ。
十数年前の出来事を思い出すのはつらいが、忘れてはいけないことがある。この本は貴重だ。当時の記者や編集局の奮闘、苦闘が資料として残り、昨日のことのように蘇るのだ。
個々に贔屓の欄はあろうが、私は月1の割合で載る『ふくしま作業員日誌』に必ず目を通す。取材は片山夏子記者で、現場からの声だ。今はまだいい。問題は猛暑で、彼らは防護服を着ての作業なのだ。その汗の量たるや。被曝にも怯え、基準を超えたら彼らは現場から退かなければならない。
8月には名物の『平和の俳句』が始まる。老若男女が投稿し、いつもハッとさせられる。もう今から楽しみでならない。