『移動と階級』
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行きたいところに行けない移動格差
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
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家族旅行は金持ち限定の贅沢となり、自家用機(プライベートジェット)乗りの勝ち組は成功したきゃ遊牧民(ノマド)たれと嘯く今日このごろ。田舎じゃ年寄りが免許返納で孤立して自殺にさえ追い込まれ、街でも車椅子や乳母車が電車でバスで難儀する。鉄道は廃線に減便、自動車は燃料ともども価格爆上がり。行きたいところに行ける者とそうでない者の差は開くばかり。
そんな移動(モビリティ)をめぐる不平等を、社会学者の伊藤将人が検証するのが『移動と階級』。そもそも移動と一口に言ってもその中身は、散歩に買い物、通勤通学から、観光に出張、離郷帰郷に転勤留学、さらには移民難民に至るまでダダっ広い。そういう移動あれこれの実情や意味を、統計や先人の研究から把握し、そこに年収や性別、年齢、居住地などのデータを絡ませることで伊藤は、さまざまな格差の現状や、格差がさらに格差を生み出してる実態を明証。さらに、行きたいところに行ける移動の自由は、生きたいように生きるために不可欠であり、個人や社会の成長の原動力であること(一方、望まぬ移動の強制は非道であること)まで再確認させてくれる。
一億総中流なる幻想を葬り去った新書、『格差社会』(橘木俊詔)がベストセラーになってそろそろ20年。以後、ニッポンの上下二分化が進むなか格差モノ新書は雨後の筍で、去年も親のしてやれることで子に差がつく不平等を暴露した『体験格差』(今井悠介)が売れたけれど、ここにまた、見逃せない新顔が登場です。