『洛中洛外図屏風 歴博甲本』
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『洛中洛外図屛風 歴博甲本 絵になる都』泉万里著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
長刀鉾(なぎなたほこ)もみえる祇(ぎ)園(おん)会(え)の山鉾巡行。おなじみの「洛(らく)中(ちゅう)洛(らく)外(がい)図(ず)屛(びょう)風(ぶ)」ながら、おなじみの狩野永徳の筆ではないバージョン。「現存最古の作品」である。
現存する「洛中洛外図屛風」は、なんと168件。うち16世紀以前のものは、片手に満たない。最古と目されるのが国立歴史民俗博物館に所蔵する、いわゆる「歴博甲本」、本書はその精細な研究である。
もちろん貴重な研究成果も満載ながら、門外漢の醍(だい)醐(ご)味(み)はやはり画上の観光だろうか。専門分析をガイドに、ウェブサイトでも閲覧可能な絵画をじっくり細かく鑑賞し、「五百年前」の京都をつぶさに巡ることができる。
どうやら昔から京都は人気のスポットで、絵画もリピーターだった。おなじみながら、おなじみになりきらない魅力が、何度も「絵になる都」、今も昔も名所たるゆえんなのだろう。その「最初」にさかのぼった時期の「静か」なたたずまい。あらためて堪能したい。(中央公論美術出版、3300円)