『記念日』
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『記念日』青山七恵著
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
誰にとっても自分の体はたったひとつ。だから愛(いと)おしい。でも、経年劣化は避けられず、嫌になることもある。
結婚、出産……若い頃、〈飛び交うボールから逃げ回っているうちに、もはやボールさえ飛んでこなくなった〉42歳ソメヤは、ガタがきた体に悩んでいる。
では、若ければいいのか――。23歳ミナイは何をやっても考えても、若いんだからのひと言で片付けられる〈雑さが嫌〉で、早く年を取りたくてたまらない。
二人が同居人となり、ミナイがソメヤに「明日から、おばあさんになってみませんか?」と奇妙な提案をすることで小さな物語は動き出す。やがて、本物のおばあさん、76歳乙部さんも登場する。愛しいわが子が〈貧相で足の臭そうなおじさん〉となり、〈息子だなんて、信じがたい〉と思う乙部さんは、自分の分身と距離をおきたい。三人は、とかくままならぬ浮世、体とどうつきあうのか。
デビュー20年。体(わたし)の変化と向き合ってきた芥川賞作家の言葉は、ちょっと痛い。ヒリヒリするけれど、じんわり心にしみていく。(集英社、2200円)