『政党の誕生』松本洵著/『日本における「近代政党」の誕生』杉谷直哉著

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政党の誕生

『政党の誕生』

著者
松本 洵 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784130362979
発売日
2025/03/18
価格
7,150円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

日本における「近代政党」の誕生

『日本における「近代政党」の誕生』

著者
杉谷 直哉 [著]
出版社
法律文化社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784589043993
発売日
2025/04/04
価格
7,040円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『政党の誕生』松本洵著/『日本における「近代政党」の誕生』杉谷直哉著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

民意の組織化 理想と現実

 衆議院議員は立候補制でなかったと言ったら驚かれるだろうか。今から百年前まで、実に三五年にわたりそうであった。出たい人ではなく出したい人に支持が集まり、議席が得られる。実に理想をきわめた代表制の像が描かれていた。

 現実は異なる。議会の開設前から、自由民権運動のなかで各地に政治家や結社が現れていた。彼らをどうまとめあげ、理想に叶(かな)う政党を作り上げるかが官民に共通する課題であった。

 徒党ということばに象徴されるように、この国には「党」をなすことを嫌う風潮がある。それにもかかわらず討論は苦手で調和を重んじる。では、どうすれば合意を得て、政府と協議し、政策を決める責任ある政党ができるのか。その試行錯誤を『政党の誕生』はつぶさに追う。

 組織化を進めて党議のシステムを作り上げて政府と交渉する自由党、政策を軸に集まりサロンとして運営される改進党。この二つのリベラルに対し、保守を掲げて政府与党たらんとした帝政党と、その後身の大成会では組織化や拡大を忌避する意見が強く、勢力は伸び悩んだ。

 それから四半世紀の実践を経て、政党政治が実現する。自由党の後継である政友会は強い結束と意思決定システムを誇り、保守勢力をも併呑(へいどん)した。改進党の系譜を引く憲政会は持ち味である政策立案の力を磨きあげることで支持を広げた。『日本における「近代政党」の誕生』は、こうして政党が有権者を糾合し政権を担う過程の成長と苦悩を描き出す。

 この二度の「誕生」期における政党の志向は中央と地方、統合と分化、政略と政策といった具合に、驚くほど相反している。理想と現実のあいだを縫って進んだ帰結であろう。「近代政党」は民意に向き合って政策を練り上げていったが、政権から陥落したあともその仕組みに縛られ、民意の選択を誤り、ついに国家の危機を救うことができなかった。

 政党は、政党政治はどうあるべきか。それを考え生かすのは、政党だけでなく、主権者たる国民の役割であろう。この問題を原点から捉えなおす夏としたい。(東京大学出版会、7150円/法律文化社、7040円)

読売新聞
2025年6月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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