元横綱旭富士の組織運営と人材育成

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

大相撲 名伯楽の極意

『大相撲 名伯楽の極意』

著者
九代 伊勢ヶ濱 正也 [著]/佐藤 祥子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166614943
発売日
2025/05/16
価格
1,045円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

元横綱旭富士の組織運営と人材育成

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 今年の大相撲五月場所は熱かった。軸となったのは横綱昇進に挑んだ大関・大の里だ。期待に応えて優勝し、見事最高位を掴んだ。新横綱として迎える七月場所が待ち遠しい。

 最近の盛り上がりを見て、あらためて大相撲に興味を持った人もいるのではないだろうか。いいタイミングで好著が登場した。九代  伊勢ヶ濱正也『大相撲 名伯楽の極意』である。

 親方は元横綱旭富士だ。1981年1月場所で初土俵。83年3月には新入幕を果たす。87年に大関、90年に念願の横綱となるが、その出世街道は決して平坦なものではなかった。本書の読みどころの一つだ。

 三役にいた昭和後期、相撲界は群雄割拠の黄金時代だった。千代の富士、双羽黒、北勝海、大乃国の四横綱。朝潮、若嶋津、琴風、北天佑の四大関が並んでいた。そんな中で、すい臓炎に悩まされながら、いかに勝ち抜いていったのか。

 親方は、ある程度の期間を決めて「それまでに目標を達成する」と、自分に言い聞かせることが大事だと説く。その目標達成のために、「今は何をすべきか、どうしたらいいのか」を考えるというのだ。

 自身を客観的な俯瞰の目で捉え、最善の一手を探る能力は親方になってからも発揮されていく。わずか10人の弟子で始めた部屋を、力士数最多の規模へと育て上げた。組織運営と人材育成のプロが語る親方論は、ビジネスマンにも大いに参考となる。その信条は「決して諦めないこと」だ。

新潮社 週刊新潮
2025年6月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク