万引き犯を死なせた男性、エステで性的なサービスをする女性…現代の不寛容さと自己責任論への違和感を作品に昇華させた丸山正樹の想い 執筆の背景をブックジャーナリスト・内田剛が聞いた
インタビュー
『青い鳥、飛んだ』
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特集 丸山正樹の世界 『青い鳥、飛んだ』刊行記念インタビュー
[文] 角川春樹事務所
丸山正樹
書店員による口コミから火がついた『デフ・ヴォイス』シリーズや、TVドラマ化された『夫よ、死んでくれないか』で注目を集めた作家・丸山正樹氏。
その最新作『青い鳥、飛んだ』(角川春樹事務所)は、コンビニでの万引き事件をきっかけに“正義”が暴走する現代社会と、グレーな労働環境で生きる女性たちの声なき現実に迫る、衝撃の物語だ。
誰かを叩き、誰かに「自己責任」を押しつける空気が蔓延する今、なぜこのテーマを書いたのか?
丸山氏が迷いと葛藤を経て完成させた作品に込めた想いを、ブックジャーナリストの内田剛が丁寧に聞き取った。
◆作家生活の節目で生まれた、今までにない作品
内田剛(以下、内田) これまでの丸山作品とは違うイメージの作品ですよね。
丸山正樹(以下、丸山) タイトルや書き方を含めて違う。今までにない作品になったと思います。
内田 一般的に「青い鳥」といえば、幸せの在処を問うイメージがあります。
丸山 決して青い鳥が飛び去っていなくなったってわけではない。なんとか飛び立つ。そこから新しく始まるイメージですね。
内田 執筆のきっかけを教えてください。
丸山 二年前に出版社から話をいただいた時、ぜんぜん別の話をお出ししたんです。でも自分の中でこれは違うと思って。その後の予定も決まっていたのですが、一度リセットさせていただきました。
内田 白紙に戻しているんですね。
丸山 新たなものを書こうとしましたが、まったく書けなくなって。『夫よ、死んでくれないか』を書き上げた頃ですね。
ここ数年は急激に刊行ペースがあがりました。私はもともと、多作の小説書きじゃないので息切れしたと感じて。
「デフ・ヴォイス」のドラマ化や、本も思いがけずたくさん出せて、この先どこへ向かったらいいのかと。
内田 作家生活の節目があったんですね。
丸山 毎日少しずつでも前に進めて、とにかく書こうと。長さも考えずにその時に考えていたものを書きました。
自分の中にあったのが二つあり、その一つがコンビニで万引き犯を追い詰めて死なせてしまった男の話です。
これは実際に十数年前に事件があって、私は小説家でデビューする前にシナリオを書いていましたが、映画にできないかと思って、シナリオの企画として設定だけを考えていたんですね。
内田 なるほど。一つ目のテーマですね。
丸山 もう一つは「性を売る」ということについて、一度きちんと書かなきゃいけないと思っていました。
肯定や否定も含めて、自分できっちり書いておきたい。ある種、セーフティネットとして機能している側面もあるというが、それでいいいのか。
搾取の問題もあるので、単純にいい悪いは言えない。ただコロナ禍の時に、明らかな形で差別的な扱いをされた。
補助金からの除外や、性的なサービス店を提供する事業者を含む飲食接待業がバッシングされたりすることもあったので、それも含めて書きたいと。
ただその時は性的なサービスに従事する方を、女性の視点で書きたいと思ったんですが、そうは言っても、体を売っている女性の心情を、自分が本当に理解できて書けるか、といったら自信がない。その時に「メンズエステ」というものが、あることを知りました。
要はグレーな世界で性的なサービスを行う店舗なのか判断がつかない。いろいろな業界で行き詰まった時に、それぐらいだったらできるという感じで入ってきて、未経験だった女性もやっているという話を聞きました。
その仕事をされている女性の話を聞いて、これは今まで小説の題材として選ばれていない話だったので書き出しました。
内田 書きながら構成していくイメージですね。