『パズルと天気』
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【聞きたい。】伊坂幸太郎さん 『パズルと天気』 「僕の履歴書みたい」な短編集
[文] 産経新聞社
名ストーリーテラーがデビュー25周年に届ける短編集。
「僕、5月25日生まれなので、5の倍数が異常に好きなんです。デビュー作が第5回新潮ミステリー倶楽部賞。吉川英治文学新人賞が第25回、本屋大賞も第5回…。25周年にも気持ちはのってます」
他の作家とのアンソロジーなどに収載されていた4編と書き下ろしの計5編は、「僕の履歴書みたい」なラインアップという。
「透明ポーラーベア」は平成17年の発表作。会社員の優樹が恋人と訪れた動物園で姉の元カレと偶然再会し、姉と歴代彼氏らに思いをはせる。
24年の「Weather」では、女性にモテる友人の結婚式に出席した大友が、元カノだった新婦からある相談を受けていて…。じんわりくるいい話だ。
「イヌゲンソーゴ」(26年)「竹やぶバーニング」(31年)はおとぎ話がモチーフのユーモラスなSF。
持ち味の伏線回収と謎解き、執筆の経緯などを紹介する巻末の解説も含め〝らしさ〟があふれる。作品を読み返した自身の感想は「昔も今もあまり自分の書くものは変わらないのだな」。
「正直あまり古びてない。時代によりかからず、自分が読んで面白いものを書いていて、その好みが変わっていないからじゃないかな」とも。
書き下ろしの「パズル」では、マッチングアプリで知り合った女性との交際で悩む秀磨が、やはりマッチングアプリで出会った女性名探偵に相談。彼女は見事に問題を解き明かすが…。
「そもそも短編は苦手な上にアイデアもなくなってきている」と産みの苦しみもあり、どんでん返しの展開も書きながら思いついたという。だが、そこは名手。「時期、経緯はバラバラでも一冊になると意外と統一感があって、僕の作家性みたいなものも出ている」と手応えは十分だ。
今後は「50代で代表作を一つ出したい」と意気込む。そして、少し照れながらこうも話した。「読者が僕の作品を楽しんで、あしたも学校、会社に行くか、と思ってもらえたらいいですね」
(三保谷浩輝、写真も)
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いさか・こうたろう 昭和46年、千葉県生まれ。平成12年、『オーデュポンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。『死神の精度』『ゴールデンスランバー』『逆ソクラテス』など著書、受賞歴多数。