『戎堂質店 事故物品リユース課 1』
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竹林七草『戎堂質店 事故物品リユース課 1』を藤田香織さんが読む
[レビュアー] 藤田香織(書評家・評論家)
曰(いわ)くを祓い、心を晴らす新シリーズ!
「好きを仕事にしたい」という気持ちを抱く人は、決して少なくない。
けれど実際、具体的な話になれば、好きを仕事にする道は険しく、その職に就けたところで現実は甘くないのが常だ。
本書の主人公・市鳴双葉(いちなりふたば)は、「好き」を仕事に繋げることができたものの大きな壁にぶちあたっていた。ブランド品が大好きで、質屋、古物店を全国八十店舗展開する「戎堂(えびすどう)質店」グループに入社したのが三年前。商品知識は既に十分。が、あまりにもブランド品愛が強すぎて、販売員には不向きと評価され、西新宿店からの異動を命じられる。
その新たな職場が「事故物品リユース課」だ。勤務地は浅草合羽橋(かっぱばし)にある一〇階建て本社ビルの屋上にある仮設のプレハブ小屋。傍には何故か神社のお社(やしろ)もある。業務は全国の店舗から持ち込まれたさまざまな曰くつきの古物や質草を、怪現象が起きないように因縁や因業を取り除きリユースせよとのことだが、双葉はお祓(はら)いができないし、霊能力だってない。同日に異動してきた唯一の同僚、橋河和泉(はしかわいずみ)は〈この部署は、肩たたきなんてできないこのご時世に、暗にやめろと会社が圧をかける窓際部署なんですよ〉という。
仕事のモチベーションも上がらないなか、ふたりはこの無理難題としか思えぬ業務とどのように対峙していくのか。ちんちくりんな双葉とモデル体型の和泉、顔はエモいのに格好はイモい神社の清掃員(と双葉が思い込んでる)など、キャッチーでいて深いキャラクター造形。火を招く雛人形や啜り泣く結婚指輪といった三つの怪奇品の「物語」。文章に勢いがあり語りも巧く読み心地がよいのだが、何よりも「仕事」と向き合う姿勢が読ませる。堅苦しくも重くもないのに説得力があるのだ。いやいや凄い。
甘くないけど悪くない、「好き」を超えたその先へと進んで行くヒントがきっと見つかる。
藤田香織
ふじた・かをり●書評家