『性/生をめぐる闘争』
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『性/生(SEI)をめぐる闘争 台湾と韓国における性的マイノリティの運動と政治』福永玄弥著
[レビュアー] 佐橋亮(国際政治学者・東京大教授)
尊厳獲得 アジアの歩み
先週の日曜日、渋谷の街は虹色に彩られた。プライドパレード2025に参加する人々はまさに誇りをもって行進し、沿道からの祝福を受けていた。世界の言語が行き交っていたのも印象的だった。
多様性が尊重される今でも、性的マイノリティをめぐる環境は、場所毎(ごと)に様々な課題を抱えている。それでも、一世代前と比べれば大きく変わった。それは「性」をめぐって、「生」きるための尊厳を獲得しようと多くの人々が闘争した成果だ。
どのようにすれば他の人々と同じように生きていけるのか。当然の権利と場を求めて動いた人々の歩みを、本書は台湾と韓国を比較しながら取り上げていく。
包摂と解放への道は容易なものでは全くなかった。軍は同性愛やトランスジェンダーを医学的観点から扱い自己決定権を奪ってきた。社会運動の高まりなどで包摂へと至る。
パレードの実現は公共空間を占拠することであり、バックラッシュ(反動)を激しく引きおこす。実現を求めて動くこともパレードに参加することも自らの身体を危険にさらすことであったが、それをやりきったストーリーを読み切ると、自然と快(かい)哉(さい)を叫びたくなった。
同性婚をめぐる最後の事例では、バックラッシュが最も熾(し)烈(れつ)にえがかれている。韓国では国家人権委員会が同性婚の権利を擁護していくが、プロテスタント右派などが激しく抵抗した。
ところで、性的マイノリティの権利が大きく認められた台湾だが、そこに中国大陸との違いを明確にして、文化的、政治的に優位に立とうとするナショナリズムがあるとも著者はいう。
著者は四カ国語を駆使し、人間の性と生をめぐる政治に正面から取り組んだ。既存の性自認や性的指向に当てはまらない人々、いわゆるクィアの研究としてはもちろん、東アジアの市民社会を知る上でも必読の書だ。(明石書店、4180円)