『踊りつかれて』
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SNSで誹謗中傷が飛び交う現実世界。復讐を狙う自爆的なヒーローが現れて
[レビュアー] 伊藤氏貴(明治大学文学部教授、文芸評論家)

いつ現れてもおかしくない“自爆的な復讐者”を描く
“誰かが死ななきゃ分かんないの?”
帯にはそうあるが、誰かが死んでも分かっていない、というのが今の世だ。だが、だからこそ『踊りつかれて』(塩田武士・著)は今読まれるべき書だと言える。
あるお笑い芸人が不倫スキャンダルで自殺し、ある女性歌手が、週刊誌記者に向かって放った暴言が暴露されたことを契機に芸能界から姿を消した。二人を追い詰めたのは、SNS上の誹謗中傷だった。現実にも起こりうる、いや既に似たようなことは起きている。
こうした誹謗中傷でひとたび炎上すると、もはや復活の見込みはほぼない。どんな言い訳をしても、それは火に新たな油を注ぐだけだ。だから芸人は自死を選び、女性歌手は自ら身を退いたのだろう。
だが、二人に代わって復讐を遂げようとする者が忽然と現れた。「宣戦布告」と銘打って、二人にひどい中傷をし続けた者や、そのきっかけを作った週刊誌記者の個人情報を、ネット上に晒したのだ。八十三人の住所、氏名、年齢、勤務先や学校、SNSアカウントなどを洗いざらい公開し、結果彼ら自身がネット上でも現実世界でもひどい非難を浴びる。
ここで話を終えても、自業自得だと読者は胸を撫で下ろしただろう。だが作者は、これをたんなる痛快な勧善懲悪の物語には仕立てなかった。復讐者にもそれなりの報いを用意したのである。これによって本書はよりリアルになり、現在を写すだけでなく、近い将来に起こりうる一つの可能性を示した。処罰覚悟の復讐者が世の中を変える可能性をである。
不倫や暴言を非難することに乗じて自身の鬱憤を晴らせるのは、匿名性に守られているからだ。そのガードを破るには、誰か一人が自らが表に出ることを厭わずに戦えばいい。
こうした自爆的なヒーローがいつ現れてもおかしくないほど、今の世は誹謗中傷に満ちている。この予言を実現させないためにも、皆が本書を読んで震え上がらねばならない。


























