歪んだ自由が支配する新自由主義経済時代と格闘する経済学者の指摘とは?

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スティグリッツ 資本主義と自由

『スティグリッツ 資本主義と自由』

著者
ジョセフ・E・スティグリッツ [著]/山田 美明 [訳]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492315644
発売日
2025/05/21
価格
3,080円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

歪んだ自由が支配する新自由主義経済時代と格闘する経済学者の指摘とは?

[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)

 トランプ米大統領に代表される権威主義的な政治家や、巨大企業の経営者たちが権力を発揮して、多くの人たちの人生に深刻な影響を与えている。「ある人の自由は往々にしてほかの人の不自由につながる」という本書の命題が、納得のいく時代になってしまった。

 そもそも「自由」とは、他人の権利や生活を脅かさないことが前提であったはずだ。自分以外の人たちを尊重し、協力して社会を発展させていくことが従来の自由という権利の前提だった。だが、スティグリッツは旧来の自由論は、重要な点を見落としていると指摘する。

 それはトレードオフ関係だ。例えばケーキをふたりで切りわける問題を考えよう。どちらか一方の取り分を増やせば、他方の取り分が減る。これが最も簡単なトレードオフだ。トレードオフの前提には、ケーキの大きさが一定であるという制約条件がある。従来の自由に対する考えは、この制約条件、本書では「稀少性」と指摘されている問題を見過ごしていた。そのために自由というのは、あたかも無制限の欲望の発揮のようにとらえてしまう人たちも出てきた、というのが本書の視点だ。

 他人や社会の利害を考えることなく、自己中心的な価値観で「自由」を謳歌する。この歪んだ「自由」を促しているのが、新自由主義的な経済観である。自己中心的な欲望を自動的に実現するメカニズムとして、新自由主義は市場を重視する。だがそれは誤りだ。市場はさまざまな制約条件に直面している。経済的自由を無制限に許せば、地球環境の破壊など市場の外部から不利益を被るだろう。これもトレードオフだ。

 著者は緩やかな規制やルールを課した方が、社会や市場はうまく機能するという。社会的な協調行動もそれが悪しき同調圧力にならないかぎり、わたしたちのウェルビーイングを改善する。時代と格闘する経済学者の真価が出ている論争の書だ。

新潮社 週刊新潮
2025年7月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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