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1950年代の大学入試現代文、全人格教養が目指されていた
[レビュアー] 小平麻衣子(日本文学研究者)
小平麻衣子さん(日本文学研究者)のポケットに3冊
〈1〉『現代文の学び方』高田瑞穂著(ちくま学芸文庫、1320円)〈2〉『「改造」論文集成 革新の現象学と倫理学』エトムント・フッサール著/植村玄輝・鈴木崇志・八重樫徹・吉川孝訳(講談社学術文庫、1870円)〈3〉『マリヤの賛歌』城田すず子著(岩波現代文庫、1408円)
妥協のなさを見せつけられる3冊。〈1〉は1950年代に大学入試問題を解説した受験参考書。問題文の量に比して、近代とは何か、人間とは何かが雄弁に語られる。設問という表れの源に湛(たた)えられている全人的な教養が目指されているからである。名文句が刺さる。いわく、「理解において薄弱で、批判において多弁であることは最も危険である」。できるわけもないが、揺るぎない文体を真似(まね)してみたくなってしまう。
〈2〉は遡る1922~23年、哲学者エトムント・フッサールが日本の雑誌の依頼に応じて書いた論文の全訳である。これがいきなり文庫で読める。掲載誌『改造』は日本では大正から昭和を代表する総合誌だとはいえ、フッサールが沈黙の時期に、アジアの一雑誌に重要な論考を載せたのはどのような事情なのか、「訳者解説」が明かしてくれる。ところでその内容たる「真の人間」の議論は、こうした教養から遥(はる)かな場所にいる人間にも触れ得るだろうか。
〈3〉は、父に売られ戦時中に南洋で「慰安婦」となって以降、性産業を転々とし、のちキリスト教系の保護施設に生きることを求めた城田すず子からの聞き書きである。深い孤絶から女性たちの居場所作りへ、魂の奔波は容赦ない。平井和子「解説」が紹介する城田のノートの文体と、やや整った本文には落差があるが、そこには、語りを受け止めた聞き手の存在も折りたたまれている。=寄稿=























