『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略』
- 著者
- 森数 美保 [著]
- 出版社
- 日本能率協会マネジメントセンター
- ジャンル
- 社会科学/経営
- ISBN
- 9784800593214
- 発売日
- 2025/04/25
- 価格
- 1,760円(税込)
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【毎日書評】「やりたいことがない」人のためのキャリアの描き方|まずは、経験と能力を見極める
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
もし「自分には、やりたいことがない」と思っていたとしても、それを誰かに打ち明けるのは気が引けるもの。そのため、モヤモヤした思いをひとりで抱え込んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし『「何者でもない自分」から抜け出すキャリア戦略 やりたいことがなくても選べる未来をつくる方法』(森数 美保 著、日本能率協会マネジメントセンター)の著者によれば、同じような思いを抱えた方は意外と多いようです。
そこで、「やりたいことが見つからない」という状態を前向きに捉えなおし、それを強みに変えていくための実践的な方法を明かしているのが本書。著者は、キャリアと組織開発を専門としています。
興味深いのは、自身が長年「やりたいことが見つからない」ことに悩んできたという点。つまり、そうした経験があるからこそ、重要な気づきを得ることができたのでしょう。
「やりたいことがない」ことは、決してマイナスではないということです。
仕事を通じて、目の前にいる人に価値を届けたいという気持ちがあれば十分です。むしろ、やりたいことがない状態は新しい可能性を示唆しているのかもしれません。(「はじめに」より)
そこで本書では、自身のキャリア形成に不安を持つ方を対象に、著者自身がキャリア支援に携わるなかで見出してきた実践的なアプローチ――「やりたいことから始めない」キャリア戦略フレームワーク――を提案しているのです。
これは、過去の経験を重視するフレームワークだそう。確実な事実として存在する過去を“どう解釈し、活用するか”を重視しているわけです。
きょうは第2章「不確実な未来に頼らないキャリア戦略の考え方」のなかから、重要なポイントを抜き出してみたいと思います。
キャリアの市場価値はなにで決まる?
「キャリアの市場価値を測る基準はなにか」と問われたときに多くの方は、専門性、年収、役職、経歴(学歴や在籍企業、転職回数など)、職種(求人数が多い職種)などをイメージされるかもしれません。しかし、キャリアの市場価値は、単純な数値や肩書きだけで測れるものではないと著者は主張しています。
“キャリアの市場価値を測る重要な指標”のひとつとして挙げているのは、「つかめるキャリア選択の多さ」。ひとつのキャリアだけで突き抜けて勝負ができる人は稀であり、重要なのは“その周辺のキャリア”を合格点まで伸ばして組み合わせ、複数のキャリア選択肢を持つこと。選択肢が増えるほど、チャンスも広がるからです。
「他の選択肢がないから現職に留まっている」状態と、「他にも選べる選択肢があるが、今の会社にいる」状態では、同じ「現職にいる」状態でも、その価値や働く意欲はまるで異なります。
会社の都合に縛られたキャリアではなく、どこでも通用するキャリアを築くためには、自分が市場の中でどう位置づけられているかを常に考えることが必要です。(43ページより)
たしかにこれまでは、「就職」よりも「就社」への意識が重んじられていたかもしれません。しかしいまは、どこででも通用するキャリアを築くべく、「市場のなかの自分」について考えるべき時代だということです。
すなわち、会社のなかだけでキャリアを考えるのではなく、市場での自分の価値に目を向け、現在の会社にとどまる理由も含め、自分自身のキャリアを見なおす必要があるわけです。
「選べる自分になる」というのは、単に転職先を選べるということだけではなく、働き方やキャリアの方向性、ライフスタイルにおける選択の自由度を高めることを意味します。(45ページより)
決断のタイミングは、突然訪れるものでもあります。そこで、なにが起こったとしても慌てることのないように、いまから「選べる自分」になるための準備を進めておく必要があるのです。(42ページより)
「経験」と「能力」は違う
著者いわく、「選べる自分」になるための第一歩は、過去の経験を細かく分解し、それらを通して得た能力を正しく理解すること。
経験と能力は混同されがちですが、実は異なるもの。そのため違いをしっかりと認識することが、効果的なキャリア戦略を立てるための基礎になるわけです。
なお、ここでは経験と能力の違いは次のように定義されています。
・経験=「実際にやったこと」、つまり「過去に携わった業務そのもの」
・能力=「経験を通じて得た力」や「結果を出すために必要な力」
(46ページより)
これを確認すれば、「経験を積むだけでは能力が育つとは限らない」ことがわかるはず。「経験からどれだけ学び、成長できたか」こそが能力として現れるのです。
たとえば営業の経験があるすべての人が、優れた能力を持っているとは限りません。その一方、営業経験がなくとも、営業として実績を出すために必要な能力を持っていれば、営業職に就いてすぐに成果を出す可能性もあるわけです。
また、経験と能力が伝える役割の違いにも注目するべきだと著者は主張しています。
経験は求人内容との「類似性」を示す材料になり、能力は結果を出す力の「再現性」を示す材料になります。(46ページより)
いわば、これらすべてを理解したうえで職務経歴書を作成する必要があるのです。ところが、経験と能力を正しく把握できていない人のほうが少ないのが現状だと著者は指摘しています。経験と能力を把握するだけでは不十分だとも。
つまり経験と能力を把握したうえで、自分の持つ特性や大切な価値観などから、自分に適したキャリア戦略を練っていく必要があるということです。(45ページより)
最初から読み進めるだけでなく、現在直面している課題に応じ、必要な章から読み始めることもできる構成。「やりたいことがない」という思いを可能性として活かすために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Source: 日本能率協会マネジメントセンター


























