<書評>『ぼっちのアリは死ぬ 昆虫研究の最前線』古藤日子(ことう・あきこ) 著

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ぼっちのアリは死ぬ

『ぼっちのアリは死ぬ』

著者
古藤 日子 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784480076809
発売日
2025/04/10
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ぼっちのアリは死ぬ 昆虫研究の最前線』古藤日子(ことう・あきこ) 著

[レビュアー] 尾嶋好美(筑波大学サイエンスコミュニケーター)

◆生命現象解明へ 地道な作業

 「アリの巣から、一匹だけアリを取り出して孤立させると、寿命が短くなる」ということが、80年以上前の論文で報告されている。本書の著者の古藤は、最新の研究技術を駆使して、それが本当なのか、だとしたら何が原因なのかを明らかにしていった。

 アリは、生まれてから死ぬまで、コロニーの中で暮らす。コロニーは、1匹の女王アリとその娘である数百匹の労働アリで成り立っている。クロオオアリの場合、女王アリの寿命は10年以上、労働アリの寿命は1年程度だそうだ。コロニーから10匹を取り出して「グループアリ」として飼育すると、約67日まで半数が生きていた。しかし、1匹だけを取り出し「孤立アリ」として飼育したところ、十分な餌を与えているのにも関わらず、約7日で半数の個体が死んでしまったのだ。

 なぜ、寿命が短くなってしまうのかを調べるため、古藤はアリを解剖して摂取した餌の量を調べた。すると、孤立アリは餌を摂取しても消化ができていないことがわかった。そして遺伝子解析や脳や消化管の組織観察により、腹部に多く存在している脂肪体で活性酸素がたまりやすくなり死に至ることを明らかにした。

 ここで一旦(いったん)、アリの大きさを考えてほしい。クロオオアリはアリの中では大きいとは言っても1センチ程度である。その大きさのものから、消化管や脳を取り出すのは、非常に手間がかかる。それも1匹だけではなく、数百匹分だ。測定装置や実験手法がどれだけ進歩しても、研究には地道な作業が必要である。

 研究のモチベーションはなにか? 古藤は「私の研究の目的はアリをモデルにして生命現象の仕組みを知ることにあり、かつその生命現象を細胞や遺伝子のレベルで理解すること」と述べている。もしかすると、古藤の研究だけでは「生命現象の仕組みを知ること」はできないかもしれない。しかし、80年以上前の論文から古藤が研究を始めたように、この研究が新たな研究のタネとなるかもしれない。研究はリレーのように続くのだ。

(ちくま新書・924円)

産業技術総合研究所主任研究員。アリの社会性を研究。

◆もう1冊

『学研の図鑑LIVE(ライブ) 昆虫 新版』丸山宗利総監修(Gakken)

中日新聞 東京新聞
2025年7月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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