【インタビュー】『夜行堂奇譚』上・下(角川ホラー文庫)刊行スタート記念 嗣人さんインタビュー!

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夜行堂奇譚 上

『夜行堂奇譚 上』

著者
嗣人 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041162781
発売日
2025/07/25
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【インタビュー】『夜行堂奇譚』上・下(角川ホラー文庫)刊行スタート記念 嗣人さんインタビュー!

[文] カドブン

角川ホラー文庫初登場の嗣人さん。「夜行堂奇譚」シリーズで注目を集め、続々と新刊を刊行するホラー界最注目の作家だ。10代から小説を書き始めたという著者。ちりばめられた民俗学的知識、魅力的なキャラクター、エンタメ作品としての完成度はデビュー作と思えない傑作であり、シリーズはまだまだ継続中だ。徐々に明かされる物語の背後、この壮大な物語に込められた著者の思いを伺った。(構成:吸血K)

■『夜行堂奇譚』上・下(角川ホラー文庫)刊行スタート記念嗣人さんインタビュー!

――そもそも「夜行堂奇譚」を書こうと思ったきっかけを教えてください(21年発表のnoteで「実は最初は若かりし日の帯刀老と木山の話が元にありました。ただどうしても結末に救いがない為、お蔵入りしていたんですね。ホントあんまりな最期だったので、救いをあげたかったんです。」と書かれていますが、そのあたりをもう少し詳しくお願いします)。

「夜行堂奇譚」は元々、二つの作品が合一した形で誕生しました。その一つが帯刀老と木山の若かりし日の話で、もう一つは夜行堂の店主の母が日本へ来た頃の話です。前者は戦後間もない日本を舞台に、後者は戦前の香港を舞台にしたものです。この二つの作品は同じ世界観で書いていたので、この設定を活かして、少しホラーめいたものを書けないかな、と思案して始めてみたのが「夜行堂奇譚」シリーズでした。

――千早、大野木のバディがとても魅力的です。彼らはどのようにして誕生したのでしょうか。それぞれのキャラクターに込めた思いを教えてください。

ありがとうございます。それぞれのキャラクターに役割といいますか、方向性のようなものを持たせてあります。千早は儚い人間の強さを前面に押し出していますし、大野木には人間の善性を与えています。因みに名前は二人とも私が暮らしている福岡の地名から取りました。JR九州の駅名でもあります。千早はままで、大野木は大野城をもじってあります。

――帯刀老、木山、夜行堂店主と異能力を持つ、操る、調伏するなど、特別な存在が見え隠れします。彼らにはモデルのような人物・存在・宗教などはありますか。

モデルというと少し違うのかも知れませんが、「古事記」や「山海経」などの世界観が影響しています。古代日本や古代中国が大好物でして、人と獣が交じり合うような原初の神に強い神性を感じるんです。帯刀老や木山は人間の身でありながら、そうした存在と渡り合う、そういう強さというか傲慢さを司っています。

――登場する怪異、怪談についてお伺いします。百物語のような味わいのものがあったり、残酷で血なまぐさいものがあったりと様々です。怪談の種はどこから仕入れてこられるのでしょうか。実話や取材などで得たものなのでしょうか。

怪異のネタは割とあちこちに転がっていまして。美術館や博物館で鑑賞をしたものや、映画やアニメから着想を得ることもあります。最近は海外の絵本などからインスピレーションを得ることが多いです。ただ作中の空気感のようなものは、夜の住宅地や、海辺などを実際に散歩しているときに「闇の中の恐ろしさ」から感じ取ったものです。

――これまで読んでこられた海外作品やフォークロア、実話怪談などでお好きな作品を教えてください。

海外作品ならスティーヴン・キングの『シャイニング』です。映画も大好きで何度も繰り返し観ています。実話怪談ですと、やはり稲川淳二さんでしょうか。子どもの頃、夏休みになると稲川さんがテレビで怪談話をしていて震え上がっていました。

――舞台となっている場所について。どこかモデルにしているところはありますか?

屋敷町は空想の町です。熊本の城下町や、倉敷の美観地区、杵築や臼杵の城下町などがチャンポンになっています。ただ一番、影響を受けているのは美観地区ですね。中央に水路があったり、柳の木が川辺にあったりと雰囲気が似ています。京都がモデルだと言われることもありますが、あまり京都に詳しくないので取り入れたのは疎水くらいでしょうか。

――特に思い入れのあるキャラクターはいますか?

やはり主人公の千早ですね。作品を終わらせる為に必要な存在として、彼には様々なものを背負わせてしまいました。「夜行堂奇譚」シリーズは本来なら事故で死んでいた筈の千早が、残された時間を精一杯生きて人々を救うという物語です。

――恐怖や怪異を書く際、気を付けていることがあれば教えてください。

怪異を人間にしてしまわないことです。どれほど人に似せていても、その本質は決して相容れない。そういう存在として書くようにしています。作中に出てくる神は異形の姿をしていますし、人語を発することもまずありません。正体不明で意思の疎通ができない、というのが理想なのですが、なかなか上手くいかないですね。

――本作はただ怪現象が起こるというのではなく、怪異の謎を解く楽しみがあります。ミステリはお好きでしょうか。

ミステリーは大好物です。綾辻行人先生や神永学先生、道尾秀介先生や乙一先生の作品を通してミステリを愛してきました。しかし、まだまだ本格ミステリを書くほどには至らず、精進に励む毎日です。

――『夜行堂奇譚』上・下についてお伺いします。書いていて、楽しかった(特に力が入った)章はどのお話でしょうか。

下巻ですと「狂歌」でしょうか。あの学生寮にはモデルがありまして、私が大学の一回生の時に入っていた寮なんです。今はもう取り壊されてしまいましたが、そこも元々は軍の病院だったとかで、奇妙な間取りをしていました。あの独特の空気感を出したくて何度も書き直しています。

――角川ホラー文庫化するにあたり、順番を入れ替えたり、加筆修正をなさったようですが、それによって物語がどのように変化したか、教えてください。

単行本の『夜行堂奇譚』は骨董品を手に取る時のように時系列をあえてバラバラにしていましたが、それでも読みやすいように意識して順番を調整しました。作家となって三年が経ち、以前の文章を整えたくなり、大幅な加筆修正もしています。よりブラッシュアップされた作品を文庫としてお届けできたと思っています。

――書き下ろし作品が上巻にも下巻にも収録されています。物語を楽しむためにつけられたプラス企画ですが、それぞれどういう意図で書かれたのか、教えてください。

上巻はあくまで小噺ということで、二人が一緒に暮らし始めた初日のことを書いてみました。これは読者の方からの要望もあったので、実現できてよかったと思っています。下巻は虻川千尋という作中で何度か登場する少女の生前の話を読んで頂きたく、書き下ろしました。高潔な魂を持っていた彼女のことをどうしても書いておきたかったので、とても良い機会だったと思っています。

――シリーズを初めて手にした読者へ、今後の続刊について一言お願いします。

「夜行堂奇譚」シリーズは「人間と怪異」を描いた物語です。夜行堂の名を冠していますが、夜行堂の店主は主人公ではありません。あくまで夜行堂という店を中心に物語が語られるのであって、物語を牽引していくのは登場人物たちです。私はそれぞれのキャラクターに色んなものを背負わせています。彼らがどのような形でそれを全うし、どのような結末を迎えるのか。人と人ならざるモノの物語をどうぞ、お楽しみください。

KADOKAWA カドブン
2025年07月25日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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