「昭和100年」の今年に読みたい“生きた昭和史”を感じる作品【夏休みおすすめ本5選】

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  • 普天を我が手に 第一部
  • サイレントシンガー
  • 四維街一号に暮らす五人
  • 廃線だけ 平成・令和の棄景
  • ロイド=ウェバーと劇団四季 ミュージカル『キャッツ』―そのヒットの陰に潜む秘密

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私が選んだBEST5 川本三郎

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 昭和百年というが、重要なのはやはり太平洋戦争を挟んだ前後約十年の激動の昭和ではないか。

 奥田英朗の『普天を我が手に 第一部』は昭和三部作の最初の一巻だが、まさにこの戦争を挟んだ激動の昭和を、四人の主人公を通して生き生きと描き出している。

 エリート軍人、金沢の侠客、女性解放運動に献身する女性、そしてモダンボーイのジャズ楽団の主宰者。

 この四人を通して、第一部では昭和初年から太平洋戦争勃発までが豊かな細部を持って描かれてゆく。

 主人公の軍人が、主戦派が軍の大勢になってゆく中、なんとか日米開戦を阻止しようと孤軍奮闘する姿が熱い。

 右翼勢力に利用されながらも政治に関わることを嫌う侠客や、シングル・マザーとして困難な状況のなか信念を通そうとする女性、そして満州で「ジャズ」と「戦争」の狭間で揺れるモダンボーイ。

 四人がそれぞれ魅力的で生きた昭和史になっている。

 小川洋子の小説は、いつも透き通ったファンタジーの良さがある。現実のなかでべたついていない。

『サイレントシンガー』は、海の見える町の外れにある内気の人たちだけが暮す静かな共同体で育った、音楽の好きな女性の物語。

 そこでは誰もが静寂を愛し、現実社会から少し離れ遠くを見つめて暮している。

「魂を慰めるのは沈黙である」という言葉を支えに。

 歌(音楽)が物語の核にある。小説(言葉)で音楽の美しさを伝えるのは至難の業だが、小川洋子は主人公が歌う歌を静かに読者の魂に届けてくれる。

 前作『台湾漫遊鉄道のふたり』で多くの日本の読者を得た台湾の作家、楊双子。文字通り双子の姉妹だが、不幸にして妹のほうは若くして病没した。

 新作『四維街一号に暮らす五人』は現代の台中に残る日本統治時代に建てられた日本風の建物がシェアハウスとして再生され、そこに住むことになった四人の女子大生と女性の大家の物語。

 女性たちの友情(あるいは愛情)をテーマにしたシスターフッドものだが、終章で、この建物の来歴が明らかになるところは、台湾の困難な現代史が語られていて胸を打つ。

 鉄道が次々に消えてゆく。そして線路が残される。ひっそりとしているので目立たない。それだけに美しい。

 鉄道廃線跡を撮り続けている写真家、丸田祥三の新著『廃線だけ 平成・令和の棄景』は、よくぞこれだけ目立たない廃線を見つけ出し、写真に収めたと、その鉄道愛に敬服する。

 同時に現在でもこんなに鉄道が消えていっているのかと寂しくなる。

 安倍寧『ミュージカル「キャッツ」 そのヒットの陰に潜む秘密』。

 一九八三年の初演以来いまだに日本各地で上演されているこの作品の成功は奇跡といっていいだろう。

 著者が「文化革命」と評するのも納得する。

新潮社 週刊新潮
2025年8月14・21日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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