相次いで発見された女性と幼女の死体からは「脳が抉り出されていた」…人間の怖さ、弱さ、脆さを思い知らされる作品【夏休みおすすめ本5選】
レビュー
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私が選んだBEST5 縄田一男
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
ベストセラーになった『多重人格殺人(サイコキラー)』を改題し、大幅に手を入れた和田はつ子の『禁忌』―—私も足を踏み入れてはいけないところに入ってしまった。女性と幼女の死体が相次いで発見されるが、その頭部からは脳が抉り出されていた。主人公の捜査一課の刑事・水野薫は、関係者の文化人類学者・日下部遼と共に犯人像を暴き出す。犯人の心理、その背景も並行して描かれ、とても共感は出来ないが、人間の怖さ、弱さ、脆さを思い知らされる。
2021年に亡くなった半藤一利の遺作『戦争というもの』は、入院中のベッドで書かれた。半藤自身が企画し、当初のタイトル案の一つは「孫に知ってほしい太平洋戦争の名言37」。『歴史街道』に一部連載の後、加筆して出版されたが、ここには14の名言のみ。著者もすべて書き切れなかったことは無念だろうが、私たちがそれを読めないのも残念。昭和史研究の第一人者の気概に触れ、襟を正される思いがした。
本作『鬼にきんつば』が日本ファンタジーノベル大賞最終候補となり、笹木一は作家デビュー……と、これがデビュー作とは。題からして面白いものだろうと想像したが、いやいやどうして、いい意味で裏切られる。
北町奉行所同心“鬼のかわはら”こと河原小平次は、強面で謹厳実直、腕も立つが、実は下戸で甘党、大のおばけ嫌い。自身の持つ長屋に入った新しい店子である美貌の僧侶・蒼円と出会い、物語が展開していく。実は蒼円、霊が見えるのだ。彼に触れるとその人も霊が見えて……。ここに大江戸最強凸凹バディの誕生である。
小平次の同僚・広瀬慶太朗の夢枕に立つ幼なじみの山崎屋仙太郎の幽霊の謎を解くことで事件を解決するのみならず、己と友の心を救う。心の中にある“ただひとつのもの”を大事に、真っ当に持っていれば、想像し、思いやれる。人として大切なものを学んだ。
宝暦8年、芸能史においてただ一人獄門を申し渡された講釈師・馬場文耕の人生を描いた沢木耕太郎初の時代小説『暦のしずく』は、その生涯の殆どが謎に包まれた文耕の人生を、緻密な調査と雄大な想像力で描き出した。講釈師としての矜持を胸に、権力に抗い、弱き者に寄り添い、“真”を追求する―—ジャーナリストの鑑を見た。
法曹ミステリの雄、大門剛明による渾身の力作『神都の証人』は、昭和18年の一家3人惨殺事件で故無く逮捕され、死刑が確定してしまった谷口喜介と、父の無実を知る幼い娘・波子を救うべく、弁護士、はたまた検事、名も無き多くの人々が、高く厚い冤罪の壁と闘った、世代を越えた物語。その繋がれた心―—人であることの意味を知る、肺腑が抉られる想いのする一巻。

























