クラフトビールは「ワガママ」が正解!仲間と「つながれば」もっとおいしいわけ

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会

『クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会』

著者
沖 俊彦 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784040825410
発売日
2025/08/10
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】クラフトビールは「ワガママ」が正解!仲間と「つながれば」もっとおいしいわけ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会』(沖 俊彦 著、角川新書)は、クラフトビールについての入門書。特徴的なのは、従来の書籍やメディアでの説明とは少し違った角度から「クラフトビールがどういうものであるか」を解説している点です。

著者は、大学卒業後に就職したホテルでバーに配属されたことから、お酒とのつきあいがスタートしたという人物。仕事を通じてさまざまなお酒に触れ、それを楽しむ人々もまた多様であることを実感し、自然とお酒の奥深い世界にのめり込んでいったのだそうです。

本格的にビールに携わるようになって15年、独立開業して10年ほど経つといいますが、10年ほど前の時点でのビールに関する情報は大手メーカーに関するものが中心で、小規模な醸造所のものは注目されることが少なかったそう。

そのため、手探りで自ら情報を集めるしかなかったということ。しかしそんななか、気づいたことがあったようです。

「日本でクラフトビールと言われているものは、外国のそれと一部は同じでありながら、まったく異なる部分を持っている」ことです。

自社のウェブサイトを中心に様々な側面からクラフトビールについて語っているうちに、縁あってアメリカのビールライター組合に加盟する機会も得ました。

ビールそれ自体の位置付けや歴史観、社会における仕組み、そしてコミュニティの在り方によって、各々がもつクラフトビール像も多様であり、クラフトビールなるものは多義的な、とても人間臭い文化なのだと理解するに至りました。(「はじめに」より)

そこで本書では自身が調査し、検討してきたことを踏まえ、日本におけるクラフトビール文化を現在に即した形で解説しているわけです。

きょうは第4章「クラフトビールを実際に楽しもう」のなかから、興味深いトピックスを抜き出してみたいと思います。

がんばらなくても大丈夫

クラフトビールを楽しむにあたっての重要なポイントとして、著者は「がんばらなくても大丈夫」だという点を強調しています。

ビールが世界でいちばん親しまれているお酒になったのは、そのカジュアルさが共感を呼んだから。クラフトビールであってもそれは同じで、初めから身構えて向き合う必要はないわけです。

たしかにクラフトビールに親しもうという過程では、「ビアスタイルを覚えよう」「歴史を知ろう」というような“お勉強”を勧められることも少なくありません。もちろんそういったことも大事ではあるでしょうが、それだけではなく、ビールを「複数の人間の関係を媒介するもの」と捉えなおしてみることを著者は提案したいというのです。

クラフトビールは、「人と人とが関わることで生まれるムーブメント」。つくる人、選ぶ人、売る人、提供する人、そして飲んで楽しむ人がいてこそ成り立つのです。

ですから、そのビールがどういうものであるかだけでなく、どのような人が関わっていて、どんな意味を持つのかを考えるのは重要なことです。

しかも、その関係性のネットワークは、日本国内だけでなく世界に広がっています。そう考えると目の前の一杯の見え方が変わってくるはずです。(144〜145ページより)

クラフトビールは人と人とをつなぎ、コミュニティを形成するもの。だからこそ、ひとりでがんばる必要はないのです。初めての方は仲間をつくり、飲みながら先輩方に教わっていけばいいだけのこと。教えてくれる先輩もかつては初心者で、先輩の先輩から教わったはず。そういう“助け合い”がコミュニティ内で繰り返され、世代を超えて伝わっていくということです。

乾杯し、対話を繰り返すと、いつしか初心者ではなくなっています。その時、コミュニティに新たに初心者の方がやって来たら、かつてのことを思い出して積極的に乾杯をし、たくさん話をしてください。次世代と向き合うこと、真摯に語ることもまた「返す」ことです。(145〜146ページより)

そういったスタンスでいると、クラフトビールも意外と難しそうではないことに気づくはず。楽しむことが重要であり、ビールを起点としたコミュニケーションもまた味わい深いわけです。(144ページより)

ワガママになることと相対化

クラフトビールを楽しむにあたっての発想法についてお伝えしたいと思います。

ずばり、「ワガママ」になりましょう。そして、その上で対話することを重視し、「なるほど、そういう解釈もあるのか」という理解(Understand)と、「確かにそうだ」という賛同(Agree)の違いを意識してください。(146ページより)

インターネットなどで評価の高いクラフトビールを調べ、追体験するのもいいでしょう。ただし、場合によってはそれが自分の嗜好に合わないというケースもあるはず。そんなときは無理をしても苦しいだけなので、さっさと次のものに挑戦するべき。つまり、それがワガママになるということです。

なにしろ時間も、クラフトビールのために使えるお金も、そして肝臓の力も有限。無理をするのではなく、とにかく自分に素直になり、自分のことを大事にすることが重要なのです。

そして、もうひとつ大事なことがあるのだと著者は述べています。評価の軸がひとつだけではなく、いくつもあることがクラフトビールのおもしろみなのだと。

もし仮に評価の軸がひとつしかなかったのであれば、それは「唯一無二の正解がある」ということになります。だとすれば、その正解である一杯だけを飲めば、クラフトビールの楽しみはそこで終了です。

しかし、感じ方や価値観はそこから先もずっと変わらないわけではありません。自分自身の嗜好についても同じことがいえますが、変化していく可能性もあるのです。つまり、そこが重要なポイント。

そこで、同じビールを複数人で飲んでみることをお勧めします。同じビールでも人によって様々な意見が出てきます。肯定的なもの、否定的なもの、自分と同じもの、全く違うもの……また、同じような意見であっても、表現が異なるとニュアンスも変わってきます。

反対の意見にしても一度受け止めて反芻し、「なるほど、そういう解釈もあるのか」となれば儲けものですし、それを取り込んで自分の視点を相対化できれば最高です。そういう機会は多ければ多いほど良いので、積極的に他社と一緒に飲む機会を増やすのが良いのです。(147〜148ページより)

信頼しつつ見解の相違を受け止めると、コミュニティ内の意見にも多様性が生まれるもの。その多様性は新たな人を迎えるのに有利に働きますし、違う意見が遠慮なくいえる関係はすてきなものでもあります。(146ページより)

クラフトビールは「酔う」ためではなく、「楽しむ」ために飲むものだといわれますが、著者はそこに「つながる」ことをつけ加えたいのだそうです。自分自身にとっての新たなつながりを増やすためにも、お気に入りの一杯を味わいながら本書を読み進めてみてはいかがでしょうか。

Source: 角川新書

メディアジーン lifehacker
2025年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク