『ラストインタビュー』
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[レビュアー] ひうらさとる(漫画家)
小説家の早見和真氏が、ジャニーズ事務所の元社長、藤島ジュリー景子氏にインタビューした話題の本『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』。
自身もタレントのファンである漫画家のひうらさとるさんは、同書を読んで、ジュリー氏やジャニーズ事務所に抱いていたイメージが大きく変わったという。どんな部分が心に残ったのか。なぜ、読んでよかったと思えたのか。
ひうらさとるさんによるレビューをお届けする。
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この本は、小説家の早見和真さんがジャニーズ事務所の元社長・藤島ジュリー景子さんにインタビューして書き起こしたものです。
実は最初は読むつもりはなかったんです。タレントのファンのひとりとして、一時期、活動の場を奪われた彼らが、ようやく戻ってきたいまになって本が出ることに疑問を感じたから。
でも、ウェブ上に公開された冒頭50ページを読んで考えが変わりました。理由のひとつは早見さんの文章が非常におもしろかったこと。もうひとつは、毒親モノとして、ものすごい名著なのではという予感がしたからです。
さまざまな読み方のできる本だと思いますが、私にとってのいちばんの読みどころは、ジュリーさんの母であり、ジャニーズ事務所の実質的なトップだったメリーさんが孤高の天才でありどこにでもいる一人の“まちがった母”であったこと。この本はそのモンスターと戦い、生き残った娘の記録でもあります。
特に驚いたのは、ジュリーさんが結婚していた当時のエピソード。ジュリーさんの元夫に対して、当初は好意的だったメリーさんが、ある時から態度を豹変させます。そして、ジュリーさんと元夫に探偵をつけて、二人の仲を引き裂こうとしたというところ。
早見さんも指摘している通り、ジュリーさんの語り口は淡々としていて感情の起伏にやや乏しい印象を受けます。激動の人生なのに、どこか自分を俯瞰してみている。強烈な毒親に育てられると乖離に近い感覚になる人もいると聞きますが、まさにそんなタイプにも思えました。
山場のひとつは、8章「あの『週刊文春』について。あの『SMAP×SMAP』について」でしょう。
2015年にメリーさんが、はじめて「週刊文春」の独占インタビューを受けて事務所内の「派閥」について語り、大きな話題になりました。当時のジュリーさんはメリーさんと距離を置いていた時期。少し離れた立場で、その記事をどんな気持ちで読んでいたのか、ということからはじまって、生放送での謝罪が波紋を呼んだ『SMAP×SMAP』の裏側、そしてSMAP解散にいたる経緯まで、ものすごい緊迫感で語られています。
早見さんは元々ジャニーズ事務所について特別に詳しいわけではなかったようです。でも、だからこそ、私たち一般の視聴者がテレビを見て疑問に感じていたことを余すところなく質問してくれていて、まるで答え合わせをするように腑に落ちる。ジャーナリスト目線じゃないところがとてもいい。
もちろん、ジュリーさんには、自身も認めている通り、当時の取締役としての責任はあります。少年犯罪が起きた時、加害者の親が叩かれることがありますが、私は直接の加害者ではない人が過剰に責められるのを、見ていられない気持ちになるのですが、早見さんのスタンスには、全くそれがない。相手を責めたり、事件をジャッジしようとする目線が入っていないから、安心して読むことができる。
性加害問題に関しても、多くの人がモヤモヤしていたところを、丁寧に聞き出しています。ジュリーさんも、補償に関する守秘義務で答えられないこと以外は、腹を決めて答えている。だから、読んでいてすっきりするんです。
ジュリーさんは日本を代表する芸能事務所の一人娘であるわけで、私は根っからのお嬢さまだと思い込んでいました。でも実際には、子どもの頃は団地に住んでいて、その自宅が事務所として使われていた。つまり、家内制手工業のような会社だったという描写もあります。メリーさんを頂点とした家族経営に近い事務所であったことが芸能界で君臨できた要因のひとつであり、同時に、問題が起きることにもつながっていた……ということが、深く理解できる構成になっているんです。
これまで週刊誌の記事を通してしか知らなかったジュリーさんのイメージは大きく変わりました。「嵐」のプロデューサーとして、売れなかった時代をどう乗り越えたのか。タレントが生き残るためにはどんな資質が大切なのか。どういったグループがうまくいくのか。ひとりひとりのタレントを、どう見ていたのか――。ひとつひとつの言葉に説得力があり、毒親と戦ってきた一人の女性というだけでなく、実績あるプロデューサーであることも伝わってきます。
終章のあとに続く追記「『嵐』活動終了の発表を受けて」も印象深いものがありました。それまで、人に迷惑をかけずに生きたい、70歳でピンピンコロリで死にたいと、ジュリーさんは話してきました。毒親と戦い続けて、何とか自己を確立したけれど、結局すべてを奪われ、抜け殻のようになってしまった。でも、「追記」の最後で、少しだけ希望を感じられる言葉を早見さんが引き出している。
同じ時代を生きる一人の女性として、僭越ながら「おたがい、がんばろう」という気持ちが自然に芽生えてきました。前を向いて生きていってほしいなって思える。こんなに充実した読後感がえられるとは思っていませんでした。
まずはぜひ一度、公開されている冒頭50ページを読んでみてください。


























