『「顧客が増え続ける」科学』
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【毎日書評】なぜ、売る前より「売ったあと」のマーケティングが重要になったのか?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
スマートフォンが生活の一部となり、SNSやECサイトを通じて容易に情報収集や購買ができる現代。そうした状況において、マーケティングは単に「手法がデジタルに変わった」という表面的な変化を超えた、もっと根本的な変化を迎えている――。
『「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡』(西井敏恭 著、日経BP)の著者はそう述べています。つまり本書は、そうした考え方に基づいて書かれているわけですが、SEOや検索連動型広告、SNS運用といった施策の話に閉じられた内容ではないそうです。
もちろんそれらも重要な要素ではありますが、本書で焦点を定めるのは、「デジタルの活用」が広がったことによって、生活者の意思決定プロセスや購買行動がどのように変わり、それに対してマーケティングの考え方や前提がどう進化すべきかという点にあります。(「はじめに」より)
重要なポイントは、マーケティングにもAIやデータ分析が取り入れられたいま、新たな勝ちパターンである「新定跡」が見え始めているという指摘。それは状況や業種、タイミングに応じて変化し続けているので、過去に縛られず、目の前のデータと状況を科学的に捉えながら、最適な一手を見出していくべきだというのです。
本書では、そうした“変化し続ける定跡”の時代におけるマーケティングの考え方と、その裏付けとなる科学的手法を、実例や理論を交えて解説していきます。
読者の皆さまには、これからの時代に適応するための視座を養っていただくとともに、自らのビジネスにおいて“新しい定跡”を見つける手がかりとして活用していただければ幸いです。(「はじめに」より)
第1章「『過去のマーケティング』と『現在のマーケティング』」のなかから、いくつかの要点を抜き出してみることにしましょう。
デジタル時代のマーケティング新常識
時代の変化とともに、当然ながらマーケティングの常識も変化しています。しかし日本企業のなかには、2000年ごろまでの「宣伝・広告・マーケティング」、あるいは2015年ごろまでのネットサービスの活用がデジタルマーケティングであるという考えで止まっている企業も少なくないようです。
生活者は商品を購入する前に、インターネットで情報収集を終わらせています。購入の意思決定に際しては、差別化によるアピールではなく、“自分や周囲の人の過去のよい体験”から、その商品に対する好印象を醸成させていきます。
したがって、その商品に対する“なんとなくいい気持ち”を抱いてもらうためには、お客様が商品を購入したあとも、企業側が“売ったあとのマーケティング”を考えることが重要になってくるわけです。
多くの企業は長らく“売るまでのマーケティング”に偏重していたため、売ったあとにまで目を向けることができていませんが、今後はそうはいかないわけです。
一方でテクノロジーの進化により、購入後の顧客に対して企業は様々なアプローチを行えるようになっています。スマホアプリやIoTによって、顧客の行動を分析するための多様なデータを得られるようになりました。
クラウドの一般化やAIにより、膨大なデータを蓄積し分析を行うためのコストも下がっています。より安価により深く、顧客を理解できるようになったのです。(24〜25ページより)
つまり、それらを駆使して“顧客の買いたい気持ち”を維持することこそが、デジタル時代のマーケティングには求められるわけです。いいかえればそれは、“企業軸でのマーケティングから顧客軸でのマーケティングへの変化”なのです。(22ページより)
「売ったあと」のマーケティングを実践できている企業は少ない
物やサービスが売れた――。そこで終わってしまっては、未来の顧客の「買いたい気持ち」をつくることはできません。
お客様が商品・サービスを通じて良い体験をし、それをシェアすることで、次の購入者へとつながる。この循環を生み出すことこそが、「売った後」のマーケティングの本質です。
これを実践できている企業はまだ多くありませんが、「売った後」のマーケティングを効果的に活用し、ブランドの成長につなげている企業も存在します。(25〜26ページより)
たとえば米スポーツブランドのナイキは、ただランニングシューズを販売するだけでなく、「Nike Run Club」というコミュニティーアプリを通じ、顧客との関係を継続的に構築しています。
他のランナーと成果を共有できるなど、「ランニングを続ける環境」を提供することで、顧客が継続的にナイキの商品を使い続ける理由をつくっているわけです。
もちろんそうした「売ったあと」の発想は、飲食店でも同じように生かすことが可能。「接待での利用なら、話に集中できるようにスタッフが鍋を取り仕切るサポートをする」「家族のお祝いなら、写真撮影などの演出をする」「海外の観光客なら、日本文化をより深く体験できるような説明やお土産を用意する」などがそれにあたります。
デジタル時代のマーケティングは、売った後のお客様にどれだけ良い体験を提供できるのか。そして、いかに再現性を持たせるのかが重要になっています。(27ページより)
しかも、それを実践できている企業は少ないので、実践できれば大きく売上を伸ばすことが可能になるわけです。(25ページより)
デジタル時代のマーケティングは組織全体で伸ばしていく
すっかり慣れた既存の手法などから離れることは、気持ち的には難しいかもしれません。しかしそれでも、成果を上げたいのであれば、社内のマーケティングに対する根本的な考え方や体質を変えるべきだと著者は主張しています。
組織や社員の価値観を変えなければならないのですから、場合によっては数年がかりになる可能性もあります。しかし、それは“かけるべき時間”だということなのでしょう。(29ページより)
「デジタル時代」「科学」「定跡」という3つのキーワードを踏まえた本書は、マーケティング担当者のみならず、経営者や今後経営に携わる方々にも読んでほしいと著者は述べています。新たな時代を生き抜いていくために、参考にしてみる価値は大いにありそうです。
Source: 日経BP


























