書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
蔦屋重三郎ブームの今、歌舞伎の女方の世界に親しんでみる
[レビュアー] 小平麻衣子(日本文学研究者)
小平麻衣子さん(日本文学研究者)のポケットに3冊
〈1〉『昭和歌舞伎 女方小説集』中村哲郎編(中公文庫、1100円)〈2〉『女の信心 妻が出家した時代』勝浦令子著(法蔵館文庫、1540円)〈3〉『久生十蘭ラメール戦記』久生十蘭著(河出文庫、990円)
この世のものではない3冊を。いま書店では、ブームとも言える江戸の版元・蔦屋重三郎に縁ある本が多く並ぶ。写楽が描く名優・瀬川菊之丞のカバーが眼(め)を引く〈1〉は、少しひねって昭和期の女方を描いた小説集。網野菊、三島由紀夫、円地文子の作品を収める。性の神話化は慎むべきだが、小説における女方は、わざわざ舞台裏を設定し、男と女という概念装置を使い尽くすことによって現れる一瞬の夢である。
〈2〉では、女たちが髪を切り尼になって、夫との性愛や家政経営を課された俗世を離れる。仏教の教理だけでは解明できない女性の信心や宗教的役割に迫った女性史研究の標石。よく知られる「変(へん)成(じょう)男(なん)子(し)」、すなわち女性は成仏できないとの教説も古代には一般的でなかったという。そこから近世まで、洗濯する女、女の落ちる地獄などの話題を通して、仏教や家族制度の変化を辿(たど)る。女性を縛るのは宗教か、それとも家族か。
〈3〉は太平洋戦争時に海軍報道班員として南方に赴いた久生十蘭の作品集。作中人物曰(いわ)く、できないことをするのが戦争である。機械整備、調理、爆撃。日常は生死の境へ続いている。だから、戦地における一輪の花は、花であると同時に、それを渇望する精神が描く幻である。その過剰な美しさが国策宣伝の意図を裏切る。短編「月」と「花」は手稿版を収録。この作品をめぐる謎解きは『定本久生十蘭全集』解題でどうぞ。=寄稿=























