『成長の書』
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【毎日書評】停滞か成長か。2つの「幸福」を動かして、自分の価値を最大化する思考法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
生きていれば誰でも、しかも若いうちはなおさら、自分の人生に不安や焦りを覚えて悩むものではないでしょうか。しかし、コーン・フェリー元日本代表である『成長の書』(妹尾輝男 著、講談社)の著者は、そんな人たちに次のようなメッセージを投げかけています。
焦りや不安は人類を進化させる原動力だ。
新天地を求めた結果、いまの世界がある。
生物に植物と動物があるように、幸福にも二種類ある。
「静的幸福」と「動的幸福」。
前者は「いまここにいる」という幸せ。後者は「目指す場所に到達する」という幸せだ。
人生の終盤において、「いまここにいる」静的幸福を目指すのは素晴らしいことだ。
だが、まだ若く、成長の真っただ中にいる君にとって必要なのは違う。君が追求すべきは「目指す場所に到達する」動的幸福だ。(「はじめに」より)
ビジネスパーソンに求められるのは、動的幸福を目指す動物としてのあり方。つねに自分が輝ける場所を探し、移動を繰り返しながら価値を最大化するべきだという考え方です。
だとすれば、「自分のいるべき場所はどこだろう?」と思い悩むのは自然なこと。それを前提としたうえで、本書において著者は「成長」を提案しているのです。なぜならそれは、変化が激しいいまの時代を生き抜くための重要なキーワードだから。
成長の逆は何か? それは停滞だ。
停滞は、物理で言う「慣性の法則」そのものだ。
決められたレールの上を惰性で動くだけの生活は「ぬるま湯」に浸かっているようなものだ。心地よいが、そこに未来はない。
しかも、「ぬるま湯」はやがて冷える。
だから声を大にして言いたい。
「ぬるま湯から出よう!」(「はじめに」より)
こうした考えに基づく本書のなかから、きょうは第3章「『役』を演じよう」に注目してみたいと思います。
成長は、現状否定だ
「成長」ということばには、明るい未来や成功のイメージがあるかもしれません。しかし、「成長は本当にいいことづくめなのだろうか?」と著者は疑問を投げかけています。
実際のところ、成長とは「現状の否定」そのものだ。
つまり、自分が大切にしている「いまの自分」や「ありのままの自分」を壊す行為でもある。
そして、この自己否定には必ず痛みが伴う。その痛みを避けたいと思うのは自然な感情だが、そこに留まる限り、本当の成長は決して訪れない。(86ページより)
もちろん、精神的な成長やキャリアの前進についても同じことがいえるはず。成長したいとか、キャリアアップしたいというときには、現状を否定し、変化を受け入れる必要性も生まれるわけです。
したがって、成長は穏やかな進化ではないということ。むしろ、非連続的な跳躍が必要とされるのだと著者はいいます。(86ページより)
「素の自分」=「ぬるま湯」から抜け出せ
信頼できる人、とりわけリーダーに求められる資質とはなにか?
こう問われた場合、「信念があること」「どんなときでもブレないこと」などと答える人は少なくないかもしれません。たしかに、難しい局面で決断を下すためには、揺るぐことのない「自分軸」を持っていることが不可欠です。
そして「自分軸」を形成するためには、まず自分を知ることが必須。なにを大切にし、なにを犠牲にできるのか。そんな、自分ならではの価値観を明確に認識しておかなければならないのです。
いつも周囲に流され、忖度や迎合を繰り返していたなら、「自分軸」は決して育ちません。自分のことが自分でできる「自立心」と、自分のことは自分で決められる「自律心」、このふたつを鍛えることによって初めて自分軸が確立されるわけです。
一方、「自分軸」よりも「ありのままの自分」や「素の自分」を大切にしたいという方もいらっしゃることでしょう。たしかに、それはそれで大切なこと。しかし、それが単なる「慣れ親しんだ思考や行動の繰り返し」であったなら、「気楽で居心地のいい自分」を言い換えただけということにもなってしまいます。
だから、あえて言おう。
「素の自分」=「ぬるま湯」だと。(89ページより)
成長を追求するなら、外的な「ぬるま湯」だけでなく、内面的な「ぬるま湯」からも抜け出す必要があるということ。その先には、新しい可能性が広がっているものだからです。(88ページより)
「成熟」とはなにか
さまざまな局面で、自分の性格について悩む機会もあるはず。自分の性格をなんとかしたいと否定的な気分になることもあるでしょうが、そもそも「性格」は変えられるのでしょうか?
この点について考えるにあたっては、性格が「成熟」するものだという認識を持つ必要があるようです。成熟とは、自分の知らなかった部分を徐々に認識し、それをコントロールできる範囲へと広げていくこと。
つまり、演じられる役割が増えること――それが成熟なのだ。
僕自身、この「成熟」をどこまで達成できているのかと自問することがある。
子育ての中で、父親や夫としての役割をきちんと演じられていただろうか?
現役時代には、社長という役割を全力で果たせていただろうか?
そしていま、講演者やエグゼクティブ・コーチとしての役割をどれだけ全うできているのだろうか?
こう考えると、自分にもまだまだ「成長の余地」があると痛感せざるを得ない。(103ページより)
つまり、与えられた役割を理解し、そのための方法論を練り上げ、それに基づいて“演じる”こと。それこそが成熟へのプロセスだということなのでしょう。(102ページより)
まず動き、成長を加速させれば「動的幸福」を手に入れることができ、その先には「静的幸福」が待っている――。本書は、その道の手引きになれるようにと書かれたのだそうです。より成長したいという思いがあるなら、手にとってみるべきかもしれません。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
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Source: 講談社


























