『部屋には葦が生えている』
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解けないはずの暗号を解いてしまったあの夏。誠実で一途な青春ミステリー
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
今夏のように外出もためらわれるような猛暑では、ひと夏の思い出も何もあったものではないが、それが青春小説の永遠のテーマの一つであることに変わりはない。
窃盗の闇バイトに加担していることに危ういところで気付いた主人公「私」は手塚という男と逃亡、その途上、自分たちが何故道を誤ったのか検証する。「私」には、小学生の夏に選択を間違えたと思った瞬間があった。解けないはずの暗号を解いてしまったのである。
ノストラダムスの大予言が世を騒がせていた一九九八年八月。「私」は母親の入院のため、神奈川県の南にある海沿いの町に住む伯母夫婦のもとで過ごすことになる。「私」はポケモンを通じて「がっちゃん」と「てっち」という凸凹コンビと、銀色の円筒を提げた松葉杖の少年とも仲良くなる。ガキ大将気質のがっちゃんだけでなく松葉杖の少年も高圧的だったが、「私」を自分の研究室と称する小屋へ案内して今開発中だというロケットを見せてくれたりするのだった。
松葉杖の少年は板尾夏海―通称・夏といった。「私」には彼を手伝えることは何一つなかったが、そんな姿を見かねた彼がある指令を出す。育ての親であるエリックの手紙を解読せよというのだ。そこにはロケット作りの秘密が隠されているはずだと。天井裏にあった手紙はアルファベットの膨大な羅列だったが……。
「私」がなぜ伯母夫婦の世話にならなくてはならなかったのか、実は深刻な理由がある。そしてそれは夏の身の上とも深い関わりがあるのだが、あくまでも深層の問題。さらに閉塞的な当時の社会状況を反映させてもいて、芸が細かい。むろん若者たちの悩みは独自に深く、AIの時代とも呼応する。暗号ミステリーとしては、有名作品を引き合いに王道をいくもので、奇をてらった趣向はなし。真っ向から贖罪を打ち出している点といい、誠実にして一途な青春ミステリーである。


























