『#東京アパート』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
小特集 吉田篤弘…『#東京アパート』刊行記念エッセイ 「青の時代」の熟成
[レビュアー] 吉田篤弘(作家)
クラフト・エヴィング商會としても活動し、著作およびデザインの仕事をしている吉田篤弘さん。
『つむじ風食堂の夜』『月とコーヒー』『それでも世界は回っている』『流星シネマ』などの著作がある吉田さんが、新作『#東京アパート』を刊行した。
同作に込めた思いとは何か? 吉田さんが刊行に際して綴ったエッセイを紹介する。
***
タイトルの頭に「#=ハッシュタグ」を付けました。
「東京アパート」というテーマのもと、さまざまな人々がハッシュタグを付けて、自らの経験や誰かから聞いた話を語るという設定の短篇集です。
「子供のころに落雷に見舞われた恐怖から、巨大な避雷針を備えた屋根裏部屋に住む青年」
「靴職人の女性が住んでいた部屋で、彼女が飼っていた鸚鵡と一緒に暮らすひと」
「互いに一歳と六ヶ月の幼な子を育てているバツイチ同士のパパ友の部屋探し」
「隣に巨大なホテルが建ち、ただ一軒とりのこされたアパートで名刺屋を営んでいる男」
中には、「アパートのベランダが好きなカラス」が語り手になるエピソードもあります。
全二十一話。すべてのお話に、ぼく自身のアパート暮らしの記憶と体験をひそませました。たとえば─、
「ベランダに大きな桃の模型が置いてある理由」
「部屋の中のどこかに迷いこんできたコオロギの消息」
「毎朝、ハイヒールの音を響かせて路地を走り抜けてゆくひと」
「深夜に焼きたての真っ黒なケーキをお隣からいただいたこと」
─等々。そうした、まさに「#」をつけて呟きたくなるようなささやかな記憶を起点にして書きました。
ぼくは東京以外のところに住んだことがありません。東京はこの数年のあいだにも大きく様変わりし、その変化に促されて、ささやかな記憶が急速に発酵し、自分の中で物語に熟成したものと思われます。
アパートで暮らしていた当時は、これといって特筆すべきことのない日々の繰り返しに、ため息ばかりついていました。そのため息の周辺にあったものが、こうして一冊の本を形づくる源泉になるとは思いもよりませんでした。
ですから、この本で語られるお話の多くは、自分にとって何かが始まる前の「青の時代」に括られていて、書いているあいだもそうでしたし、こうして一冊の本としてページをめくる時間にも、「青」が浸透してくるのを感じます。
いままさに「青」の只中にいるひと、すでに、「青」から遠く離れて、回想が物語になりつつあるひと、どちらの皆さまにも届けたく、読み終えたあとに、「#」を付けて、自らのアパートにまつわる記憶と体験を語りたくなったら、作者としては本望です。


























