100年続く老舗企業の意外な共通点「マニュアルをつくらない」神対応

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100年続く老舗企業が大事にしていること

『100年続く老舗企業が大事にしていること』

著者
日比野 大輔 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784534062093
発売日
2025/08/29
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】100年続く老舗企業の意外な共通点「マニュアルをつくらない」神対応

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

海外の経営者に対し、日本の企業文化や100年企業のあり方について説明する機会があったという『100年続く老舗企業が大事にしていること』(日比野大輔 著、日本実業出版社)の著者には、その過程で気づいたことがあったのだそうです。

私たち日本人にとって“当たり前の習慣”が、世界では当たり前のことではないということ。さらにいえば外国人のみならず、戦後生まれの著者にとっても、100年企業の“当たり前”は風変わりなものだそう。

そこで、それらを整理し、「非合理にも思える取り組みの背後にある意味はなにか」を自問しながら体系化。その結果、以下のような結論にたどり着いたのだといいます。

日本の100年企業には“実践的な哲学”が確立されている。

経験に裏打ちされ、哲学に昇華された戦略やビジネス手法がある。

言語化・体系化されていないが、そこに確かなビジネス理論が存在しているのだと。(「Introduction」より)

日本の100年企業のルーツがある「江戸」は、外部から遮断された鎖国という環境下で、知識階級から庶民までがひたむきに儒学を学んだ時代。そんななかで純粋に学問が吸収・反芻され、江戸の思想と精神を背景としながら、「知恵」と「工夫」が育まれてきたわけです。

100年企業の施策を言語化することは、分断が広がる現代において、調和や融和を生み出す一助になりはしまいか。その小さな一歩として、私はこの本を書いていこうと思います。(「Introduction」より)

きょうは第1章「100年企業の不思議な共通点」のなかから、2つを抜き出してみたいと思います。

「キレイごと」で経営が成り立つ

100年企業の感動的な美談を見聞きするたび、著者は「そんなキレイごとで、経営は成り立つのか?」と思っていたそう。現代の経営常識をもってしても、100年企業の経営はなかなか理解しづらいというのです。

そのことに関連して引き合いに出されているのが、一般的な企業でよく見かける「顧客を大切にする」という社内スローガン。顧客に対して誠実かつていねいに対応していれば、やがて信頼が生まれ、持続的な取引につながる。リピーターが増えれば、売上・利益は安定する。顧客満足度の向上は、利益の源泉になるといった構図です。

しかし、100年企業の場合、顧客だけでなく、「社員」も大切にします。

ときには、「顧客よりも『社員』を大切にする」のです。パートやアルバイトといった従業員についても同様です。(27ページより)

事実、100年企業の現場を見学した著者は、「大切にする」ことが徹底していると感じたのだそうです。たとえば、ずっと成果を出せない社員を辞めさせることなく、きちんと給与を払い続ける。むしろ、そんな社員が長く働ける環境を整えようとするというのです。

とはいえ、そんなやり方を続けていたのでは利益を出しにくいのもまた事実。しかしそれでも100年企業は、したたかに「その先」を読んでいるのだといいます。

根底にあるのは、「従業員を大切にするから、利益が出る」という発想。

従業員が長く働き続けることで、企業としての「競争優位」が生まれる事業構造を確立しているのです。長い歴史のなかで、そうした事業構造を確立させています。

続けてこうも言います。「従業員を大切にしたい、その想いからアイデアは生まれてきたのだ」。(28ページより)

そればかりか100年企業は、取引先(仕入れ先)にも同じような姿勢を打ち出すそう。たとえば価格が少し高かったとしても、つきあいの長い取引先から仕入れるのです。仕入れ先の経営状態を気づかい、ときには自社が原価割れ(売れば売るほど赤字になる)になってでも、取引先の利益を確保しようとするわけです。

たとえ短期的にはコスト増になったとしても、長期的には経営リスクの低減、利益の持続性につながる――そういった確固たる信念に基づいているのでしょう。(26ページより)

マニュアルを用意しない

旅館や飲食などのサービス業たる100年企業は、顧客一人ひとりへの細やかなおもてなし、いわゆる“神対応”と呼ばれるサービスが強みです。

なぜこうした対応ができるのか? どんな教育をしているのか? 対応マニュアルに書いてある内容とは? それが知りたくなります。しかし、この疑問への答えはこうです。

「マニュアルはないんです」

(30ページより)

そうした神対応は、個々の社員から自然に生まれるようです。良質なサービスを安定的に提供しようとする場合、対応マニュアルをつくるのが一般的。しかし100年企業からは、上述の回答に次のような発言が続くのだそうです。

「マニュアルがあったら、本当のおもてなしは生まれません」

つまり、マニュアルを戦略として「あえて作らない」のです。「ない」のではない。

作らないから、神対応が生まれているというのです。(31ページより)

著者はここに、老舗だからこそ確立された教育プログラムの存在を感じるといいます。マニュアルではなく、「ひとりひとりの良心(良知)に基づいて最善の対応をする」という明確な方針だということ。

たしかにそうでなければ、世代を超えた神対応などが生まれてくるはずもありません。そんなところにも、100年企業の底力を確認することができるのです。(30ページより)

ここでは2点だけをご紹介しましたが、当然のことながら「100年企業の不思議な共通点」は他にもさまざま。それらを含め、本書で明らかにされている独特のビジネス戦略は、スタートアップを筆頭とする現代の企業にもきっと応用できることでしょう。

著者紹介:印南敦史

作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2025年9月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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