『古代人の教訓』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】4000年前の古代エジプト人の教えが「いまの悩み」に効く
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『古代人の教訓』(大城道則 著、ポプラ新書)は、考古学者である著者が研究資料を探すなかで見つけた、古代人たちによる格言集。古代人が後世に残した“戒めのことば”を紹介したものです。
この本での古代人とは、古代ギリシアのソクラテスやプラトン、アリストテレスでもなければ、古代中国の賢人・思想家・哲学者の孔子や老子でもない。ゲーテやニーチェよりも数千年前に同じ地球上に生きた古代エジプト人である。どの人物よりも古い時代、4000年以上前に、現代人が抱える仕事や日常の悩みを解決するヒントを提示していた。(「はじめに」より)
著者によると、古代エジプト人の思考と現代日本人の思考には、共通点が多いとしばしば指摘されているのだとか。たとえば、「西方には死者の国がある」とか、「多神教」などがそれにあたるようです。
いずれにせよ、時間的にも地理的にも遠く離れた古代のナイル世界に暮らしていた人々と私たちとの間に共通の観念が存在するというのは、それだけで興味深いことなのではないでしょうか。
本書で紹介する「教訓=格言」を通して、現代社会に蔓延る仕事や人間関係などの悩みが解決できるよう、ヒントを提示していきたい。古代エジプト人たちの放つ言葉から一つでも得るべきものが見つかると幸いである。(「はじめに」より)
きょうは、第4章「仕事との向き合い方」のなかからいくつかを抜き出してみることにしましょう。
先を見据えて準備する
「夏がやって来た」などと言って浮かれるな。すぐに冬がやって来るのだから。
夏の間に薪を集めておかなかった者は、冬に暖をとることができない者だ。(「アンクシェションクイの教訓」より)(213ページより)
この格言を読んで思い出すのは、イソップ寓話の「アリとキリギリス」(原題「蟻とセンチコガネ」)ではないでしょうか。つまり、いまも昔も、汗水たらして一生懸命に働くことが大事だということです。(213ページより)
相手の話にしっかり耳を傾ける
あなたが陳情を受ける側の人物であるのならば、その者の言葉に素直に耳を傾けるのです。彼がその要件を話し終わるまで追い出してはいけません。
陳情する者は要件が成就するよりも、自分の言葉を聞いてもらえることを好むものです。よく耳を傾けてあげることは、相手の心を慰めることなのです。(「宰相プタハホテプの教訓」より)(217ページより)
ここでいう「あなた」とは、社会的には高位の人物。つまり宰相であったプタハホテプは、社会的身分の高い人たちに対してアドバイスしているわけです。
つまり、陳情を受ける側にいるのであれば、自分自身よりも弱者である陳情者(要望や意見を訴える人)たちの話を、忍耐強く最後まで聞くことこそが役目だと諭しているのです。ビジネスにあてはめれば、これは上司と部下との関係にもいえることでしょう。
また、ここからは、現代社会で多くのニーズがあるプロのカウンセラーによるカウンセリングが、古代世界でも求められていたことがわかると著者は述べています。
現代のカウンセリングの原則には、「受容的態度」と「共感的理解」とがある。前者は、カウンセラーがクライエントに対して無条件の肯定的関心を持つこと、そして後者は、クライエントの内的世界を相手の立場で共感的に理解しようとすることである。いずれも決して安易な同情ではなく、相手の思考や感情を推測することで、その対応策を検討することだ。(219ページより)
事実、「陳情する者は要件が成就するよりも、自分の言葉を聞いてもらえることを好むものです」「よく耳を傾けてあげることは、相手の心を慰めることなのです」という部分は、現代のビジネス書などでもよく目にするフレーズです。つまり、現代と同じことが古代でも求められていたわけです。(217ページより)
限られた時間の使い方
人は死と世を理解する以前の子供として10年間を過ごす。人は生きていくための教育を身につけるために次の10年間を過ごす。
人は生きるのに必要な財産を得るために次の10年間を過ごす。人は心が相談相手となる以前に老年に至るまでの10年間を過ごす。そして人にはトト神が聖人に与える全人生の内の60年が残っている。(「インシンガー・パピルス」より)(227ページより)
古代エジプト王国最後の女王であるクレオパトラ7世が生きた、いまから約2000年ほど前のプトレマイオス朝時代に編纂された文書「インシンガー・パピルス」は、現在はオランダのライデン国立古代博物館に所蔵されている格言集。
そこに書かれたこの文章が示しているのは、「子どもとして10年、教育を受けるのに10年、財産を蓄えるのに10年、年老いるまでに10年かかり、その先に60年が残されるということ。
実際のところ、古代エジプト人たちの平均寿命は40歳くらいだったと推測されるようですが、とはいえ古代エジプト人たちもまた、人生100年を理想として考えていたことがわかるわけです。
古代エジプト人たちも、やはり深く深く現世での生活について考えたのだ。
平均寿命が延び「人生100年時代」を掲げる現代の日本社会をまるで先取りしたような格言ではないか。(228ページより)
古代エジプト人は、死後に待っている幸せな永遠の「来世=楽園(イアル/アアルの野)」の存在を信じていたそうです。
真っ当な人生を送った人は楽園に行き、未来永劫そこで生き続けることができると考えていたのです。だからこそ彼らは、魂の宿る肉体を腐敗させないようにミイラをつくったわけです。
しかし、そんな古代エジプト人でさえ、この世の人生について日夜不安を感じたり、思いを巡らせていたということ。人間の悩みや不安は、いつの時代も同じなのでしょう。(227ページより)
古代エジプト人についての知られざる、そして興味深いエピソードが簡潔にまとめられた一冊。手に取ってみれば、予想外の気づきが得られるかもしれません。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ポプラ新書


























