『10人の東洋哲学者が教える ありのままでいる練習』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】人と比べない。2300年前の思想家、荘子の「ありのまま幸せ」論
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「あれが足らない、これが足らない」
「あんな奴がいるから仕事が嫌になる。イライラする」
「もっとチヤホヤされたい。なぜ自分は美人・イケメンじゃないの?」
「もっと評価されていいはずなのに……私だってもっと認められたい」
(「はじめに」より)
『10人の東洋哲学者が教える ありのままでいる練習』(筬島正夫 著、SBクリエイティブ)は、こうした「生きづらさ」「しんどさ」を「ありのままで解消する」ために書かれたものだそう。
無理に飾り立てたり、あるいは強がったりしても、そこに本当に求めたものがあるとは限りません。実際のところ、派手に成功している人が幸福とは限らないものでもあります。著者によれば、多くの人がそのことに気づきはじめているのだとか。
そして、成果至上主義や物質至上主義の闇を知った人たちのなかから、「『ありのままでいいんだよ』ということばが聞かれるようになってもきたのだといいます。そこで本書では、「ありのままの自分で幸せになれる扉」を、東洋哲学の視点から開こうとしているわけです。
東洋哲学というと、なじみが薄いという人も多いと思いますが、逆にいえば、そういう人こそ、このご縁に東洋哲学に触れていただき、その面白さや奥深さを垣間見ていただけるとありがたいです。(「はじめに」より)
とはいえ難しい内容ではなく、あくまで「超入門」。専門的すぎるところや、宗教色が強い部分を思い切りカットし、哲学者のエピソードなどもまじえつつ“日常に活かしやすい部分”に特化しているのです。
きょうは6章「比べなくていいよ、すべては夢だから――荘子」に焦点を当ててみましょう。「あの人には負けたくない」というような気持ちに振り回され、自分をすり減らしているときには、荘子の思想が参考になるのだそうです。
老子の大ファンすぎて、布教活動に成功
荘子(荘周)は、紀元前369年生まれの中国戦国時代の思想家です。
当時は国が乱立し、諸子百家(しょしひゃっか)と呼ばれる思想家たちが活躍していました。
多くの人は「どうすれば国が豊かになるか」を考えていたのです。
そんな時代の中、荘子は「人の幸せとはなにか」にフォーカスしました。
彼の書いた本(『荘子』)は、非常に重宝されたんですよ。
荘子の人となりを一言で表すと、老子の“熱狂的なファン”。
とはいえ老子の弟子ではありません。しかし老子への情熱が強すぎて、老子本人以上に老子の思想を語って広め、「労荘思想」という流派を築き上げました。
(209ページより)
老子が『老子道徳経』を記したあと静かに隠居してからも、荘子は老子の思想をよりユーモラスに、よりわかりやすく広く伝えたのでした。寓話や逆説を駆使しつつ、人々に「考える楽しさ」を提供したのです。荘子のことばがいまでも読み継がれていることには、そうしたバックグラウンドがあるわけです。
荘子がとくに重視したのは「道(タオ)」という概念で、これは万物の根源にある普遍的な法則を指すもの。荘子は自然界の動きも、人間社会の変化も、すべて「道」に従って流れていると述べたのです。
たとえば、川の流れを思い浮かべてください。水は高いところから低いところへと流れ、無理に逆らうことはありません。これこそが「道」の表れです。
人間もまた、無理にあらがうことはせず「道」に沿って生きることが大切だと荘子は説きました。(210ページより)
現代社会においては「がんばれ!」「努力しろ!」とつねにプレッシャーがかかるもの。しかし荘子は、「そんなに自分を追い込まなくても、うまくいくよ」というスタンスだったのです。
たとえば仕事や試験勉強などのときに焦って詰め込みすぎると、逆に頭が回らなくなることがあります。でも荘子の考えでは、「リラックスして、自分のペースでやればいい」ということになります。老子が考えた「無為自然(「道」に従い、あるがままに生きようというあり方)」をより徹底したわけです。(209ページより)
老子と荘子との違いとは?
しかし、両者の視点には微妙な違いもあるようです。
老子の「無為自然」は、政治や統治における理想として語られることがよくありました。為政者は、民の生活に余計な干渉をしないことを重視していたのです。つまり、リーダーは民を自由にし、自然な営みを尊重すべきだと考えていたということ。
一方、荘子の「無為自然」は個人の生き方や心の持ち方に焦点を当てています。「自然の摂理に任せて生きれば、心は自由になる」という考え方です。
どちらかというと、人生哲学に近いものです。
ですから荘子本人の生き方も、この思想の実践でした。誰かに評価されるためではなく、彼はただ「評価や数に振り回されない自由の身」を選んだのです。(211〜212ページより)
私たちはともすると、「成功しなければ」「努力しなければ」「苦労しなければ」というように追い詰められてしまいがち。けれども、成功を目指して努力するあまり、体や心を病んでしまったのでは本末転倒です。(211ページより)
役に立たないものにも価値がある
さらに著者はここで、荘子の「役に立たないものこそ価値がある」ということばについても触れています。
たとえば、大きな木があるとしましょう。
規格外ですから材木にもならず、家具にもならない。でもその木陰で人は涼むことができますし、鳥たちは巣をつくれます。
つまり「役に立たないからこそ、長く生きられる」のです。
(212〜213ページより)
たしかに、一見役に立たないと思われるもののなかにこそ、本当の価値はあるのかもしれません。そして懸命になりすぎず、「無茶をしなくてもいい」「無駄な競争もしなくていい」「苦労至上主義は捨てたほうがいい」と考えれば、肩の力が抜けてくるのではないでしょうか。(212ページより)
もしもいま、「このままの自分ではダメなのではないか」と感じているなら、本書に収められている10人の哲人たちの声に耳を傾けてほしいと著者は記しています。心を少しでも軽くするために、参考にしてみる価値はありそうです。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: SBクリエイティブ


























