『ウクライナ企業の死闘』
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民間企業の従業員たちが命を賭して守り抜いている重要インフラ
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

ロシアに占領されたザポリージャ原発(撮影・2015年 Wikimedia Commonsより)
2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まってからすでに3年半となった。8月にトランプ米大統領とプーチン露大統領による戦争終結への話し合いのあとでも、キーウに大規模な複合攻撃があり子どもを含む23人の死亡が発表されている。
この間ウクライナは重要インフラサービスをどのように守り抜いてきたのだろうか。電力・エネルギー、通信、金融、運輸が軍事侵攻前にどのような準備を行い、何を決断したのか、復旧・修理現場の過酷な現実や経営者の苦悩を本書は詳細に分析していく。
ウクライナが現在まで降伏せずにいられるのは、国民および政府や軍の士気の高さと国際社会からの支援の継続はもちろんのこと、軍人ではない民間企業の従業員たちが命を賭して守り抜いていることが大きい。
たとえば電力。もともと旧ソ連邦への供給源として整備されてきたため、詳細を知るロシアは電力インフラを攻撃しやすい。それを防ごうとウクライナは約10年にわたり電力網をロシアから切り離してヨーロッパに繋げるための調整を続けていた。
だが侵攻間もない3月、ロシア軍はザポリージャ原子力発電所を占領。電力とエネルギーインフラの狙い撃ちは続き、その年の11月には発電所の三分の一が破壊され約450万人が停電の被害に遭った。人々は発電機を使い厳寒を耐えるしかなかった。
旧式な施設の修理部品は、同じシステムを使うリトアニアが無償供給した。現場の技術者たちは砲弾が降る中、命がけの修理作業を行う。繰り返される攻撃の合間の修理は、まるで賽の河原の石積みのようだ。
ミサイルやドローンなどの直接攻撃もさることながら、生活や経済に大打撃となるのはサイバー攻撃である。サイバーセキュリティの専門家である著者は、ウクライナで行われたサイバー防御を日本の有事に当てはめて考察する。
政府は国民を守れるのか。重い問いを突きつけられた思いがした。


























