書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
令和を代表するホラー傑作短編集や昭和百年にふさわしいアンソロジー
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

※画像はイメージです
ホラー小説が人気だ。もちろんこれまでも人気だったが、ヒット作の映画化もあいまって、ますます人気が高まっているようだ。
アンソロジーも各種編まれている。文春文庫の『令和最恐ホラーセレクション クラガリ』は、『近畿地方のある場所について』の背筋による「オシャレ大好き」など六作を収めた。
はやせやすひろ×クダマツヒロシ「警察が認めた〈最恐心霊物件〉」は最後に「実体験をもとに(略)一部脚色を加え」たと付記されるように、ユーチューブでも人気の実録もの。栗原ちひろ「余った家」に出てくる、何でも多数決で決める裕福な家族が怖すぎた。
怪奇もので、とんでもなく面白かったのが『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』(岩波文庫)である。
芥川が旧制高校の学生に向けて編んだ英語教材として大正時代に出版されたもの。八巻のうち二巻が幽霊譚だというから、芥川の怪異好きのほどがうかがい知れる。
アンソロジストとしてのセンスと目配りの良さもきわだつ。編者の澤西祐典、柴田元幸の両氏のほか、畔柳和代、岸本佐知子、藤井光といった当代きっての翻訳者が新訳を手がけているのも読みどころである。
学生向けの英語読本ではあるが、芥川自身が読んで刺激を受けたものが多く、各編の澤西氏の解説によって芥川作品への影響も教えられる。「藪の中」の着想を得たと言われる、『悪魔の辞典』の著者アンブローズ・ビアスの「月明かりの道」(澤西訳)も収録。下敷きにしているところと二作の違い、両方わかって興味深い。
荒川洋治編『昭和の名短篇 戦前篇』(中公文庫)は好評だった同じ編者の戦後篇(タイトルは『昭和の名短篇』)を受けて編まれたもの。芥川の最晩年の作である「玄鶴山房」にはじまり、織田作之助「木の都」に終わる十三編が収録されている。二冊をあわせると昭和という時代が見渡せ、昭和百年にふさわしいアンソロジーである。
編者が選んだ昭和の名長編十二の書名が挙げられているのも自分にはありがたかった。























