『フェイクファシズム 飲み込まれていく日本』
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<書評>『フェイクファシズム 飲み込まれていく日本』金子勝 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆DX、農政…支離滅裂を打開
刺激的なタイトルは必ずしも本書の勘どころそのものではない。著者の問題意識は徹頭徹尾、トランプ体制の米国ないし世界の大変革期にあって、日本はどのような経済や社会を構想していくべきか、の一点にある。
もちろんSNSで垂れ流される噓(うそ)で大衆が踊り、自発的に民主主義を無効化させつつある状況は深刻だ。しかし「フェイクファシズム」は手法に過ぎぬ。GAFAMの支配に乗じるトランプの目的を見極め、かつ故・安倍晋三元首相による「アベノミクス」の失敗を認めて、総括しない限りは、何も始まらない──。
そう主張する著者は、テレビ出演も多い経済学のビッグネーム。インフレなのにデフレ脱却政策が継続される愚をはじめ、急激に進む軍事国家化のカラクリ、マイナ保険証さらには政府DX(デジタル・トランスフォーメーション)の致命的な欠陥等々を、主に財政学の見地から論じ、返す刀でまたぞろ原発推進に回帰したエネルギー政策の大転換、今回の米騒動で露呈した農政の支離滅裂を打開する具体策を提示してのける。
幅広い分野でフィールドワークを重ねてきた著者の面目躍如だ。他方、最近の野党が熱心な消費税減税論を受けて、最悪は赤字国債依存型、相対的に現実的なのは食品ゼロ税率案、などとする専門的な解説にも、目からウロコを落とされる。「現実に絶望を感じている方々も、読んでいただければ、絶望から希望は生まれてくるのだということに気づくはずです」という前振りに偽りはない。
評者の場合、特に興味を惹(ひ)かれたのは、私たちはなぜ、対米関係を重視しなければならないのか、という「そもそも論」だ。防衛力を米軍に委ねている現実、巨大な自由市場、民主主義のシンボルとしての存在…と大きく3つあった前提が、トランプ体制で崩れかけている、ゆえに「もはや米国に依存する正当な理由はありません」。
空理空論では決してない。否、この議論を抜きにして日本の将来を語ることはできないと知るべきだ。
(日刊現代発行、講談社発売・1650円)
1952年生まれ。経済学者。慶応義塾大名誉教授。『資本主義の克服』。
◆もう1冊
『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』会田弘継著(東洋経済新報社)


























