国産ホラーブームをにらむSFホラーの書き下ろし短編アンソロジー

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国産ホラーブームをにらむSFホラーの書き下ろし短編アンソロジー

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 SFとホラー。近くて遠い関係にある両者だが、映画『エイリアン』のように、時としてすばらしいマリアージュを果たすこともある。

 実際、作家・井上雅彦が監修するテーマ別の書き下ろしアンソロジー《異形コレクション》シリーズは、これまでに、SFホラーの傑作短編をいくつも世に送り出してきた。

 その井上雅彦が日本SF作家クラブ会長に就任したからか、いままた出版界を席巻する国産ホラーブームをにらんでか、同クラブ編の書き下ろしアンソロジー・シリーズの一冊として、新たに『恐怖とSF』が刊行された。序文、各編扉裏の作品紹介のほか、日本SFとホラーが交わってきた歴史を9ページにわたって要領よくまとめた巻末解説も井上雅彦が担当し、これ一冊読めば、両ジャンルの関係がよくわかる仕組み。

 もっとも、実際の短編でSFとホラーをうまく融合させるのは至難の業。全20編のうち、それに成功している作品は必ずしも多くない。現実世界に広がる排外主義と扇動の問題をSF設定に託して生々しく描く(特定の実在人物の顔をつい思い浮かべそうになる)飛浩隆「開廟」と、流行の生成AIネタを使ってSFホラーの模範解答を示した新名智「システム・プロンプト」、地獄と“炎上”を鮮やかに重ね合わせる新鋭・長谷川京の「まなざし地獄のフォトグラム」がベスト3か。他に、梨、小田雅久仁、飛鳥部勝則、柴田勝家、池澤春菜、菅浩江、平山夢明、牧野修、久永実木彦、斜線堂有紀ら、ベテランから若手まで、多彩な顔ぶれが参加している。

 SFホラーの名手といえば小林泰三。没後に編まれた『時空争奪』(創元SF文庫)の表題作は、河川争奪(実際にある地理的現象)にヒントを得た前代未聞の歴史改変ホラー。バカSF的な奇想と比類ない恐怖がひとつに合わさり、強烈な読後感を与える。昨年世を去った山本弘の短編集『闇が落ちる前に、もう一度』(角川文庫)の表題作もそれに負けず劣らずすばらしい。「SFホラーの理想型って?」と思った人はぜひこの2作を読んでほしい。

新潮社 週刊新潮
2025年10月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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