『文学少女には向かない職業』
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「新人教育はどうなっているんだ!?」『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を手がけた編集者が強烈に共感した作品とは
[レビュアー] 佐渡島庸平(株式会社コルク代表取締役社長CEO)

主人公に自らを重ねたと話すコルクの佐渡島庸平さん
『ドラゴン桜』や『働きマン』『宇宙兄弟』といったヒット作を手がけた佐渡島庸平さん。
現在は漫画家や小説家のエージェント会社「コルク」の代表を務める佐渡島さんが、自身の経験に重ねて強く共感した作品がある。
作家・小嶋陽太郎さんによる小説『文学少女には向かない職業』(祥伝社)だ。
マンガ嫌いの文学少女・山田友梨が、個性豊かな作家や編集者が揃う青年漫画編集部に配属され、奮闘する姿を描いた一冊。
同書の読みどころとは何か? 生々しくリアルな描写に思わず頷かずにはいられなかった佐渡島さんの書評を紹介する。
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僕は講談社に入社する時、文芸誌「群像」への配属を希望していた。研修中は、毎日、日報を書くのだけど、そこでも小難しい文章を意識的に書いて、文芸に配属したほうが良さそうと思われるようにアピールをしまくった。
配属の時に「硬い頭をマンガで柔らかくしてきて」と言われて、「モーニング」の配属になった。文学をやりたかったのに、マンガに配属というのは、主人公の山田と全く同じだ。
ちょっと違うと言えば、僕はマンガも大好きで、山のように読んでいたことだ。絵心が全くないから、小説の編集者のほうが自分は役に立つと考えて、文芸を希望していた。
配属されて、すぐに担当したのが、井上雄彦と安野モヨコ。日本を代表するトップマンガ家。
そこも山田と同じだ。
配属されたばかりの時の様子は、山田とは全く違うといいたいところだが、そこにも親近感を覚えた。講談社を辞めて、コルクを起業する時のこと。
指導者員をしてくれた先輩と飲みにいった。すると、僕を指導していた時に大変だった話をしてくれた。僕が思ったことを、拙い言葉でズケズケ言うから、「講談社の新人教育はどうなっているのか」「あんな好き勝手ものを言わせていいのか?」と作家から言われたことがあったという。僕に指摘しても、変わる気がしないから何も言わずにいたけど、と。
『文学少女には向かない職業』は、編集者と作家の関係性を本当に深く捉えている。
読者は、作品を楽しめばいい。けれども編集者は、作品を味わうのではない。原稿から作家の心の奥底を読み取らなくてはいけない。そこに触れ、編集者自らの内面を作家にさらけ出した時に、作家と編集者の二人三脚が始まる。
仲間として一緒に仕事を頑張るから、二人三脚になるのではないのだ。作品で描かれている作家と編集者の関係はあまりにリアルで、今まで思い出していなかった過去の記憶がたくさん、自然と引き出されていった。
僕が新人作家に思い入れを持って、贔屓目で仕事をしていると、先輩に「佐渡島くんは、自分の担当にそこまで思えていいねえ」と言われたものだ。
山田は、こんな風に言われていた。
「作家に思い入れを持ちすぎて空回りする。おれの見てきた経験上、そういうやつほど芯のある編集者になる。」
先輩からかけられてる言葉もほとんど同じだ。
漫画家と小説家のエージェントをしているコルクのミッションは、もう変更したのだが、一時期「心に届ける」だった。
山田の先輩編集者である筧さんがこんな風に言った時、
「おれたちの仕事はな、漫画を読者にとどけることだ。とどけるってのは、ただ原稿を雑誌や本の形にして本屋に並べられる状態までもっていくことじゃねえ。作家の頭の中で起こっていることを、一〇〇パーセントに近い形で読者にとどけるために仕事をするってことだ。」
僕は首がもげそうなくらい頷いた。
さらにコルクのバリューは、「やりすぎる、さらけだす、まきこむ」なのだが、山田が成長していく姿は、まさにその3つの行動ができるようになっていく過程だった。
僕が共感したところは、細かいところから、テーマまでもう無数にあった。あげ出したら、いくらでも書けてしまう。
最後にしっかりと言及しておきたいことがある。この小説では、作家のエージェントが出てくる。
今のコルクの仕事だ。
僕は、創業した時に日本で初めて作家のためのエージェント会社を始めたボイルドエッグズの村上達朗さんに会いに行き、相談をさせてもらった。
作者の小嶋さんは、ボイルドエッグズからデビューしているから、エージェントについてもすごくリアリティがある描写ができているのだろう。
作家と編集者だけでなく、そこにエージェントも加わってリアリティがある小説を読めるなんて想像もしてなかった。
心をがっしりと鷲掴みにされてしまった。


























