13人の関係者が刺青師の“伝説”を語る昭和のアンダーグラウンド証言集

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

伝説の刺青師 梵天太郎 異端の美学 13の証言

『伝説の刺青師 梵天太郎 異端の美学 13の証言』

著者
四代目梵天 彫けん [監修]/川崎美穂 [著、編集]
出版社
Type Slowly
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784911273043
発売日
2025/08/22
価格
3,000円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

13人の関係者が刺青師の“伝説”を語る昭和のアンダーグラウンド証言集

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 昭和4(1929)年に老舗呉服屋に生まれ、鹿児島の基地で特攻隊の訓練を受けるうちに敗戦を迎え、特攻隊くずれとなって酒と喧嘩に明け暮れ、美術の専門学校に通い、紙芝居師になり、刺青師になり、少女漫画家になり、「右手に針、左手にギター」の流しの演歌師になり、極道演歌でレコードを出し、役者になり映画監督になり……。最後は沖縄に一門を構えて79年の天寿を全うした昭和の怪人、梵天(凡天)太郎。いまや四代目梵天(こと彫けん)が発起人となって、生前の梵天太郎の伝説を13人の証言で追いかけた一冊だ。おもしろくないわけがない。

 そして弟子すじの刺青師はもちろん、映画監督に実話誌編集長、任侠道から僧侶になったひとまで登場する、これは昭和のアンダーグラウンドを語る証言集でもある。インタビューの聞き手となったのは四代目梵天。手練れのルポライターにはない素直な距離感が、読者代表みたいな対話録になっていて、それもいい。

 いつのころからか刺青は「タトゥー」になり、世界的には服と同じくらい当たり前の“肌飾り”となって(サッカーのワールドカップでタトゥーの入ってないスーパースターがどれくらいいるだろうか)、なかでも最大級のリスペクトを受ける和彫りの聖地である日本だけが、いまだ温泉もスポーツクラブも入場禁止だったりする現実。しかしオトナたちの偏見をよそに、ワンポイントから全身まで、実に気軽にタトゥーを入れる若者がどれほど増えているか、ご存じか。

 SNSの相互監視とコンプライアンス恐怖症が蔓延する現代社会で、本人が世を去ったあとになって新たな注目を集めるようになった梵天太郎という生きざま。生前の活躍を知らない時代に生まれた男の子や女の子たちにとって梵天さんは、どうしようもない日常を「捨てちまえ」とささやくハメルンの笛吹きなのかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2025年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク