『ディノサンえほん きょうりゅうえんへいこう』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『中生代水族館』
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[文] 新潮社

木下いたるさん(左)こたさん(右) 撮影:坪田太(新潮社写真部)
「もしも絶滅した大昔の生き物たちに会えたら……」そんな想像を子供の時にしたことはありませんか?
「恐竜たちがのびのびと暮らす恐竜園」「たくさんの魚竜が自由に泳ぐ水族館」……そんな夢のような世界を絵本の中で描いた、『ディノサンえほん きょうりゅうえんへいこう』(新潮社)と『わくわく科学ずかん 中生代水族館』(大泉書店)。
ただの空想にはとどまらず実際の科学考証に基づきその世界観を実現させ、多くの子供たちから支持を得るこの2つの作品の著者である、木下いたるさんとこたさんに仕事観や作品の見どころ、今後の展望を伺いました。
【「褒めも否定もされない」好きを仕事にする作家の幼少期の共通点は?【木下いたる×こた対談】(前編)】では、制作秘話やそれぞれの子供時代について伺いました。
最初は赤ペンだらけ
――実際には見ることのできない生き物を描く中で、難しいと思うことや大変だったことはありますか?
こた やっぱり古生物……特にこのカンブリア紀とか、とんでもない昔の生き物って、本当に資料が少ない。図鑑を見比べたり、監修の中島保寿先生からたくさん資料をいただいたりしたんですが、俯瞰して見た時の姿が載っているわけではないので、生き物によってはある程度自分の想像が必要になります。それこそ、色合いがあんまり解明されてない生き物とかは自分なりの色で再現してみたりできるので、絵本としてはそこは逆に良かったりします。資料のなさと、それを再現できる自分の力量との間で葛藤しています。特に『古生代水族館』から『中生代水族館』までは3年空いてるんですけど、最初の時の絵を見るとめちゃめちゃ拙いなって……。今回は生き物のデフォルメだったり、質感の表現とかが技術的にうまくできるようになったことを作りながら実感しました。
木下 恐竜の方がまだあるかと思いますが、「資料の少なさ」というのはとても共感します。監修の先生とはどのようにやり取りされていますか?
こた まずイメージラフと構成を一通り作って、それを監修の先生に見ていただいています。情報に間違いがないかのチェックと、味付けというかアドバイスもいただいたり。例えば、アノマロカリスという生き物を描いた時、「実は最新資料ではここに毛があるんです」と教えていただき、取り入れました。図鑑を見ながら描いていますが、やっぱり自分一人だと絶対無理だなとは思ったし、本当に助かりました。
木下 自分が描きたいものと「実際の研究ではこう」っていうもののミックスというか……そこでものとしてどれが一番映えるか、でもなるべく間違いがないか。もうそのせめぎ合いをずっと繰り返すしかないですよね。
こた 分かります! ちょっとだけ『中生代水族館』でも恐竜を描いているんですけど、めちゃくちゃ難しいと思いました。普段は陸の動物の絵をあんまり描かないので、手足、骨格、肉づきや足の動きの感じだったりとか……全然うまく再現できなくて。だから、木下さんがこれだけリアルに描かれているの、めちゃくちゃすごい。
木下 実はめちゃくちゃ直されています。監修の藤原慎一先生は筋肉のつき方とかの研究をされているので、もう初めの頃はめっちゃ赤ペンだらけで……。今でこそ、「江の島ディノランド」にいる恐竜ラインナップは描き慣れていますけど、新しいのが出てくると間違ってるんじゃないか……って思って描けなくなります。逆に、僕も最近、恐竜以外の古生物を描くお仕事をしたんですけど、難しかったですね。アノマロカリスも描いたんですけど、苦しみましたね、これ。特にデフォルメするっていう作業はディテールをごまかせないから、余計に難しくて。だから、こたさんの絵を見て本当にすごいなと思いました。以前、漫画で1回アンモナイトを出したんですが、それもすごく難しくて……もう二度と描きたくないと思いました(笑)。
こた 自分も、アンモナイトにめっちゃ赤ペン入りました。難しいです。このぐるぐるが一見規則性ないように思えるんですけど、規則性があるみたいで……。それを資料で説明していただいたんですけど、見ても分からない。
木下 だからそれをもう何度もプロの方に見ていただいて、すり合わせていくしかないっていう感じですよね。
ずっと描きたいVS.健康
――好きなことを仕事にして、良かったなと思うことはありますか?
こた 「これを描くぞ!」ってなったら、それに関しての図鑑や参考書などをありがたいことに資料として送ってもらえるんですよ。『てつどうさがしえずかん』の時も、鉄道図鑑とかを出版社さんにいただいて。それって、元々自分がちっちゃい時に好きだった図鑑とかが、今は仕事の資料になっている……面白いなと思います。なんか全部、ウィンウィンじゃないけど……すごくその時に感じましたね、この仕事は良かったなっていうか。
木下 自分は描きたいと思ったことを死ぬまでに全部漫画にしたいっていう思いがあって、それをさせていただいてることがすごくありがたい。それから、漫画を仕事にできているということは、漫画に全部時間を使えるっていう。めちゃくちゃ贅沢というか、めっちゃいいなって思います。でも、ずっと原稿に向き合ってると、描いても描いても終わんなくて、「この原稿が紙だったら破ってるだろうな」ってぐらい、ほんとに嫌になります。「これ描いたらもう漫画は描かない!」ってなっちゃうくらい。でも、原稿が上がって1日休むと「次何描こう」ってなってるんですけど(笑)。本質的に辛いってことはないけど、やっぱり毎月の締め切りがあって、目の前の作業が佳境に入ると、精神がどんどん腐っていくっていうか……。
こた 僕は辛い、大変なこととかはないんですけど、生活リズムはだいぶ破綻してるかもしれません。ずっと作業しなきゃいけなくて、夜通しとかってなっちゃうと、もうだんだん乱れていって……。今の所、体に特別不調が起きたことはないんですけど、常に睡眠不足になっちゃったりとかはあるんで、その辺とどう向き合っていこうかなっていう。若いうちだからできてるけど、今後のことを考えると、ちょっとバランスとかを考えなきゃなと思いましたね。
木下 今気をつけてることとかありますか?
こた ないです。ヤバイ。大学卒業して1年ほどなんですけど、まだ大学の時のままの感覚でいるところが結構あります。徹夜もまだギリできちゃう。好きだし、没頭してずっと描いていられちゃうし。就職して毎日通勤してたら、決まった時間に朝起きて、夜また帰ってきて寝るみたいなリズムができますけど、家でずっと作業してるってなると……。どうされてますか!?
木下 僕もどうしても描きたいから夜中まで描いちゃう。生活リズムとかずっと考えずにやってきてたんですが、やっぱり最近ちょっと体に不調が出てきて。無理してやって、死んだら意味ないなって思うようになりました。だから、最近は6時に起きて作業して、23時ぐらいから眠たくなって24時に寝るように……っていう訓練をしてます。この間、仕事でアメリカに行ってきて、その時差ボケで、ちょうど夜中になるとめちゃくちゃ眠くなったんですよ、夜10時とかに。これで生活リズムつけばいいなと思ってたんですが、2週間ぐらいしたら戻ってきちゃった(笑)。元々夜に集中力が上がってくるタイプなので、やっぱどうしても夜型になっちゃうところはあるんですが、年齢的にも自分の体の健康を何より大事にやってます。でも、そんな上手くできないです。
こた いやいや! 24時に寝て6時起きとかはめちゃくちゃ理想だなと。
木下 でも、こたさんも僕もですが、絵を描いて本を作る仕事って、多分合理的には生きられないのかなと思います。どこかを諦めない限りは難しいんじゃないかなっていうのを、今漫画書いて10年ぐらいになるんですけど、やっと最近わかってきた感じがします。体も変わっていくし、精神も変わっていくし、生活も変わっていくから、何を一番大事にして、じゃあそれを大事にするためには例えば人に1つ頼るとか。自分も変わりながら、自分のそのやり方を変えていくのが必要だなって。今はアシスタントはいませんが、今後お願いするかもしれません。
作品のおススメポイントと楽しみ方
――『きょうりゅうえんへいこう』『中生代水族館』、お互いの作品を読んでの感想や、実際にこの世界に行ったらどんな楽しみ方をしたいか教えてください。
木下 『中生代水族館』では、「三畳紀の海の世界」をたくさんのサメが浮遊する、見開きの場面が本当にすごく感動的というか……僕の中では一番のハイライトです。物理的な動作と同時に、これだけ豊かな色・形と、物量でガーッと攻めてくるこの仕掛けがすごい。子供の時に読んでいたら、大人になってもきっと覚えているだろうなと。こたさんの絵本はレイアウトがすごいですよね。
こた ありがとうございます。『古生代水族館』の時は、まだ知識とか、単純に技術とかもなくて、頭の中にあってもそれが再現できないところはあったんですけど、なんかそれがやっぱり3年の時を経て、こういう風に再現できるようになったのはすごく嬉しかったですね。
木下 とにかくいろんなものがこの1ページにいて、それを見やすいように上手く配置していくのはすごく難しいことだけど、これを読む子供たちにとっては本当に楽しいだろうなと思います。ページをめくった時に、「ここに何がいるかな?」って探したり、また違う時に読んだら、前気づかなかった「あれ? こんなところにこんな生き物がいるよ」とか、いろいろな楽しみ方がある。いい意味で、単純に全部をパッと見えないようにする、読むたびに子供たちにとって発見があるようなレイアウト。本当にすごいです。
こた 嬉しいです。でも、見開きとか生き物がたくさんいるページよりも、施設とかの方が全然時間がかかってレイヤー数も多かったりするんですよね。意外と読者には伝わらずですが……。

『中生代水族館』本文より(大泉書店)
木下 じゃあそこ強調しておきましょう(笑)! 物量がある方が結構大変に感じるけど、多分描いてる方からしたら意外と地味なところの設計とか、そっちの方が時間かかったりしますよね。
こた 描き手あるあるですね。そこを共感していただけて、嬉しいです。
木下 というわけで、僕は『中生代水族館』に行ったら、まず水槽トンネルの通路を通って、一番大きな水槽の前に行って1日中眺めてると思います。あとはやっぱりお土産とご飯は外せない。僕はパンが好きなので、パンモナイトは絶対食べたいです。
こた 『きょうりゅうえんへいこう』は視点がリアルなのがやっぱりいいなって。それこそ今年夏に江の島に行ってきたんですが、絵本の中で見たことのある風景とか出てきて……。このタワー(シーキャンドル)は登ったし、すごい。やっぱり臨場感がありますよね。自分の作品は空想にだいぶ振り切ってるんですけど、この「江の島ディノランド」のリアルな所がすごく好きです。自分は「ぬい撮り」が好きなので、本物の恐竜とぬいぐるみを一緒にして写真に撮りたいですね。あと、アンキロパンもすごく美味しそうなので、食べたいです。

『きょうりゅうえんへいこう』本文より(新潮社)
木下 ちなみにぬいぐるみを持つならどの恐竜が良いですか?
こた そうだな。可愛い系じゃないかもしれないんですけど、この中だとスピノサウルスですかね。水辺にいるイメージが自分はやっぱりそそられるんで。
――ご自身の作った絵本をどんなふうに楽しんでもらいたいですか。
こた イベントや展示会をすると、「この絵本見て絵描いてきました」とか「先生見てください」みたいな子供たちが結構いて、やっぱり絵を描くの好きな子が多いです。この世界を拡張して、自分で妄想を膨らまして描いてくれる子もいて、それすごくいいなって思って。なので、「こっちの世界はどうなってるんだろう?」とか、もうどんどん妄想を広げてもらって自分なりの水族館を空想したりそういう楽しみ方をしてほしいです。
木下 僕も、読者の皆さんには想像して楽しんでもらいたいです。イマジネーション。これを見て自分の中に湧き上がったものとか、それを大事にしてほしいかな。ここから先、「どんな恐竜の世界が広がってるか」「自分だったらどういう恐竜を恐竜園に置きたいか」とか、いろいろ想像してもらいたいですね。もちろん絵本を何回も読んでくれるのは嬉しいですけど、これを読んだことが何かきっかけになって、自分の中の想像力がもっと豊かになってくれたらいいなと思います。それが自分がしてきたことなんで。
よりニッチな想像の世界へ
――最後の質問になるんですが、今後描いてみたい世界がもしあれば教えてください。
こた まだはっきりとは言ってないんですけど、『古生代水族館』『中生代水族館』ときたら……“あれ”を描かずにいられないですよね(笑)。古生代は地球が全て海だった世界なんで、水族館にしやすかったんです。中生代になると、それこそ本来恐竜がメインになるので、恐竜の陰に隠れていた世界や生き物たちをメインに描きました。新生代は哺乳類……もう完全に陸の世界になってくるんで、より海の生き物とかにスポットライトなんて当たってないと思うんですよ。なので、そいつらをどう味付けしていくかっていう難しさもあるし、今からすごくワクワクします。自分もまだ全然知らないんで、これから勉強していくのがすごく楽しみではあります。
木下 僕はすごい地味ですが、「下水道」が好きなんです。新婚旅行でイタリアに行った時、アマルフィ海岸にあるポジターノって、すごい綺麗な所なんですけど、僕はもうずっと、トイレや下水がどうなってるのかが気になっちゃって。ああいう綺麗な景観を保っているのはインフラやシステムがあってこそだと思うんです。古代ローマの水道はものすごくシステムとして優秀なんですけど、紀元前何千年という昔からもうすでにそういう技術がある。そういうお話ができたらいいなって。もしかしたら、漫画より絵本の方が向いてるかもしれないですね。
木下いたる(きのした・いたる)
漫画家。『ギガントを撃て』(講談社)で、デビュー。新潮社「コミックバンチKai」にて『ディノサン』を連載中。2025年6月に『ディノサンえほん きょうりゅうえんへいこう』を出版。出身地:山梨県
こた
絵本作家・イラストレーター。大学3年生の時、『わくわく科学ずかん 古生代水族館』(大泉書店)で、絵本作家デビュー。シリーズ続編の『わくわく科学ずかん 中生代水族館』を2025年8月に出版。出身:新潟県



























